静岡新聞論壇

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12月15日

テロ対策 日本の役割

貧困への激しい怒り

アルカイダは反米テロを繰り返すことによって、存在感を高め、世界のイスラム国で支持者を増やした。テロが大型になればなるほど、ジェファードの目的が達成されそうに思われ、テロ戦士希望者に厚みが増した。アルカイダのテロはエスカレートの一途を辿り、その結果、遂にアメリカ軍の報復攻撃を招き、本拠地のアフガンで壊滅させられた。

社会には拡大運動が続いた後、遂に行き詰まって崩壊するという現象はいくらでもある。経済活動では、最近15年間の不動産業界や、流通業界企業行動がそうだった。

しかしアルカイダはバブル企業等とは違って一旦壊滅しても、直ぐ生き返る可能性が大きい。というのはパレスチナ、チェチェン、ミンダナオを始めとして、貧困な生活に苦しみ、かつ国家として独立できないイスラム同胞が世界各地に多数存在しているからだ。

彼らにとって、中東で石油資源を確保するために勝手な行動をとっているアメリカは許せない存在だ。かってアメリカはイラクやアフガン等に武器援助を行ってイランやソ連と戦わせ、そのイラクやアフガンが反米に転ずるや否や、遠慮なくそこに軍事攻撃を加えた。また中東の反米国を押さえるために、イスラム教の祖国であるサウジに軍隊を駐在させ、腐敗したサウジ王朝を支えている。

さらにアメリカはパレスチナ人の土地を軍事力で占拠しているイスラエルを援助している。経済力が弱いパレスチナでは、失業している若者が多く、彼らは生きていくためには、宿敵のイスラエルで単純労働を探すという無惨な日々を送っている。

イスラム諸国は経済的に劣っているので、イスラム原理主義者達がアメリカと対等に戦へる武器は自爆テロしかない。またそれはイスラム的な天国への道を約束してくれる。アルカイダを始めとするイスラム・テロ集団の影響力は、イスラム国だけではなく、欧米諸国におけるイスラム移民の間にも拡がり、世界的スケールの反欧米テロ活動になった。

考えてみると、今から150年前に発生した共産主義運動も世界的な拡がりを持っていた。カール・マルクスが世界的な連帯を提唱し、各国でテロ等の過激な運動が展開され、それらは分裂と結合を繰り返しながら、1918年にロシア革命に結実した。

自立的な経済力育成援助を

日本でもかって世界的な連帯を持つ共産主義運動が拡がった。敗戦までは政府が凄まじい弾圧を加え、多くの才能がでっち上げ事件によって死刑になり、また拷問に苦しみ獄死した。敗戦までの18年間を獄中で頑張り抜いた闘士もいた。敗戦後も東西対決が激しかった1960年頃まで、共産党に対する弾圧が続いた。

それにも屈せず、多くの若者がその運動に加わったのは、目を覆うような貧困や大きな貧富の格差に対する激しい怒りに動かされたからだ。イスラム諸国では現在膨大な数の若者失業者が貧しい生活を送り、また移民先の工業国では差別に苦しんでいるので、これからも第二、第三のビン・ラディン氏が相次いで登場しても不思議ではない。

日本やヨーロッパが豊かになったとき、それらの国の共産主義運動が消えた。中国では経済が急成長するとともに、共産主義が市場経済化した。今後日本の果たすべき国際的な役割は難民に専ら救援物資や「サッカーボール・縄跳びの縄」等をばらまくことではなく、アフガンやパレスチナ等に工業技術と技術教育のノウハウを援助して、自立的な経済成長力を育成することだ。経済成長率が高まればテロ集団は必ず消滅する。

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