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12月10日
建築法改正不況
準備不足の制度発足
最近の住宅の着工件数は、昨年の同期に較べると半分近くまで減少した。住宅企業は土地と資材を購入したにも拘わらず、なかなか着工できないのだ。金利や賃金の負担は変わらないから、経営はじわじわと悪化している。家電、家具、インテリア等の住宅関連業界でも、販売が減ってきた。
世界経済は、サブプライムローン問題の影響を受け、先行きが暗い。多分、間もなくアメリカ経済が低迷するから、円の対ドルレートは上昇し、対米輸出が減るだろう。そうした時に、住宅産業が打撃を受けると、景気後退の切っ掛けをつくりそうだ。既に倒産件数が増加し始めた。
住宅着工が減った理由は、建築法が6月に改正され、建築許可がなかなか降りないからだ。この改正によって、マンションのような大型建築は、先ず自治体か民間の検査機関が建築計画の内容について、次ぎに判定機関の専門技術者が構造設計の安全性について、それぞれ審査するという2重のチェックシステムが生まれた。
これは素晴らしいシステムであるが、不思議なことに、厚労省は構造設計の専門家の不足という問題をそのままにして、この審査制度を発足させた。
その上、万事に準備不足だった。法改正の内容についての技術解説書は、施行後2ヶ月も経ってからやっと発行された。専門家でも、この解説書なしでは「政府が要求している安全性」が満たされているかどうかを判断できないのだ。さらに、建物の耐震性チェックに必要な構造計算プログラムの開発が遅れている。審査待ちの新築住宅件数は累増し、何時正常な状態に戻るか見当がつかないそうだ。
工業国が成功したのは、人々がどんな仕事でも「段取り」をつけ、「公の心」をもって働いたからだ。遅れた国では、外国の技術を利用して新鋭工場を建設しても、低稼働に苦しみ、結局、閉鎖される場合が多い。それは1, 港や道路が悪いので、原材料が足りなくなる、2,従業員の能力が不足している。3,幹部が私欲を肥やしている等、工場を動かすための前提条件が欠けているからだ。
国交省は、まるで発展途上国の政府のようだ。人材確保や充分な準備といった「段取り」なしに、2重のチェックシステムを発足させた。また幹部は住宅の安全対策だけが自分たちの仕事であり、それによって生じた日本経済の混乱については、景気対策を担当する他の官庁の仕事だと考えた。
「責任」と「段取り」
彼等は、住宅が安全になる上に、審査機関の数が多くなり、天下り可能な先が増えたと満足しているかも知れない。「公の心」の裏に「役所の心」が見えるようだ。
年金制度も「段取り」なしに発足した。年金基金は一種の金融機関である。普通の金融機関には、定期的な厳しい内部検査、信賞必罰の人事、内部昇進(天下りなし)といった経営ノウハウが蓄積されているから、ミスが少ないのだ。社会保険庁は、そうしたノウハウを欠いたままで発足し、天下りを軸とした「役所の心」丸出しの人事を繰り返し、職員の勤労意欲を殺いだ。
その結果、社保庁には正確な年金台帳がない、誰がどれだけ支払ったか、どれだけ受け取れるかが、判らないという混乱状態が続いた。厚労省や社保庁の幹部は、国家が破綻し国民が飢えても、素知らぬ顔をして豊かな生活を送っている発展途上国における大統領側近そっくりだ。
日本の官僚システムが発展途上国の状態から脱出するには、集団で決めたとしても、大きな失敗したときには、必ず責任者をはっきりさせ、降格させることだ。それが近代社会の常識である。そうすれば緊張感が生まれ、役人も「段取り」を真剣に考えるようになる。