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10月13日
アフガン問題 日本の役割
分裂恐れるパキスタン
パキスタンには、パンジャブ人、シンド人、パシュトゥン人を始めとする多様な民族や、ムハジールといわれるインドから逃れてきた大量な難民がおり、それぞれ言語や習慣や生活条件が違っている。
それぞれの民族はインド、アフガニスタン、イラン等の隣国に住む数千万人のそれぞれの同胞との一体感が強いので、パキスタン政府は国家分裂の恐れを抱き続けている。イスラム教を国家統一の軸にしようとしても、イスラム教の中で、スンニ派とその分派やシーア派が激しく対立し、時には内乱が発生するほどだ。北西の辺境地帯には、最も戒律が厳しいスンニ・ワッハーブ派を信じ、平時でも銃器を携えている精悍なパシュトゥン人がいる。ここからタリバンが生まれた。
パキスタン政府の要人は、かってイスラマバードで私につぎのように言った。日本人はアメリカ人と違って、滅多に国旗を揚げず、国歌を歌わないが、すべての日本人は確実に日本を愛している。そこには日本独特のノウハウがあるに違いない。そのノウハウを教えてくれるならば、いくらでも委託研究費を払う用意がある。私は不可能だと断った。
彼によれば、アメリカの政治家は必ず自由と民主主義の国になれば、国民の不満が消えて国家は統一されるという。ところが、もしパキスタンが言論・結社が自由な国になったならば、隣国の同胞と一体になった民族運動が強まり、国はバラバラになるだろう。民主主義国になるために投票を実施すれば、偽投票やインチキ集計が行われ混乱するだけだ。民主主義を教育をしろと言われても、貧しい国民は教育の必要性が解らないから、子供を教育しようとは思わない。
ところで、アメリカは、軍事、経済、学問、芸術を始め、ほとんどすべての分野で世界一になった。クラシック音楽でも、ドイツやオーストリアのミュージシャンはアメリカに留学し、アメリカで演奏活動をしたがるそうだ。多くのアメリカ人はアメリカン・スタンダードこそ最も正しいと信じ込んでいる。
求められる日本の柔らかさ
パシュトゥン人はワッハーブ派の規律にしたがって、女性に対して自由な外出、就学・就職、皮膚の露出等を堅く禁じている。アメリカ人はそれを人権侵害問題だ信じているから、アメリカ軍はワッハーブ派の祖国であるサウジアラビアに長期駐留し、全く遠慮もせずに多数の女性軍人を配置し、彼女達は平気で肌を出して外出し、男性軍人と歩いている。ワッハーブ派やイスラム原理主義の人々がこうした類のアメリカ人の行動を神に対する冒涜だと激怒するのは当然だ。
そもそも最近十数年の間に、文化の分野でも世界一にのし上がったアメリカが、砂漠や山岳地帯の貧しい土地で、何百年間も厳しいイスラムの教義を守ることによって生き抜いてきた人々に、自分達の価値基準を押しつけることに無理があった。その無理がたたってニューヨークのテロ事件が発生した。アメリカが安全な国ではないことが判ると、世界の資本がアメリカに流入しなくなり、アメリカ中心の世界経済が崩壊しかねないから、アメリカは慌ててアフガンを攻撃した。アメリカの価値基準がグローバル・スタンダードになることを恐れるイスラム諸国はこの攻撃に批判的だ。
パキスタンの要人が、国造りのノウハウを日本に求めたのは、多分日本はアメリカのように独善的な国でないからだろう。タリバンもそう思っているかもしれない。日本人がアフガン問題の解決に寄与できるとすれば、アメリカ軍の後方支援ではなく、どの宗教や価値観に対しも柔らかに接することができるおおらかな姿勢である。