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11月15日
景気回復と物価下落
生産コスト低下が影響
景気は設備投資にリードされて緩やかな回復を続けている。この景気回復の特徴は物価の下落にあり、消費者物価は年率約1%の低下を続けている。経済の常識では、物価が低下し続けると、売上高が減り、企業収益が縮小するものだ。それとともに企業の設備投資が減退して、景気は浮揚力を失うはずである。ところが、実際には、昨年中頃から企業収益が上昇し、現在、過去10年間で最高の水準に達した。設備投資はかなり増加している。
何故そのような常識に反することが発生したか。それを知るために物価下降の原因を考えてみると、まず第一に地価の低下があげられる。大都市では地価が10年間で1/3になった。10年前には、サラリーマンが東京の中央部でマンションを購入するのは不可能だったが、最近では可能になった。住宅費著しく下がり、私たちの生活コストが低下した。また、地価の低下とともに、新しいタイプの大型小売店が続々建設され、低価格商品を販売するようになった。
第二に東アジア諸国がめざましい成長を遂げた。中国の企業は日本製と変わらない良質な繊維製品や家電製品を生産できるようになった。繊維製品で言えば、良質の中国製品が日本製品の半分以下の価格で専門店や大型店で売られ、流通業界の変革をもたらすほどの影響を与えた。
第三にIT革命の進展があげられる。インターネットの利用によって、流通が合理化されコストがかなり低下した。また、製造業では、部品や材料を全世界から最低の価格で調達でき、それだけ生産コストが低下した。その上、景気の回復とともに、設備の稼働率が上昇したので、一層生産コストが下がった。
このように物価の下落は製品の供給過剰ではなく、コストの低下によってもたらされたといえる。賃金カットが行われても、消費者物価が低下したので、実質賃金は下がらなかった。そのため厳しいリストラにも拘わらず、社会不安が起きず、平穏な世の中が続いている。賃金カットが拡がり、低賃金のフリーターの雇用が増え、その結果企業収益が増加した。
しかし、日本経済はこのまま回復路線をたどれない。というのは、まず東アジア諸国との競争に敗れた産業、新しいタイプの流通業に敗れた伝統的な小売店、公共事業依存型の土木産業等で倒産が増加している。その上、次のような理由によって、今後中小企業倒産が一層増加するからだ。
IT関連産業がカギ
一つ理由は、まだ金融機関に80兆円くらいの不良資産が残っていることだ。大手銀行は統合合併の前に大規模な不良資産の処理が必要であり、そのため、そごうのような大型小売業が倒産した。今後、流通業や建設業で大型企業の倒産や大規模なリストラが発生するから、そこに製品を納めている中小企業に連鎖倒産が起きる。また、金融庁は中小金融機関に対し、規則通りに貸し倒れ引当金を積むことを
要求している。経営内容が悪い中小金融機関は否応なしに整理される。その過程で、中小企業に対する貸し渋りが広がり、倒産がもっと増えるだろう。
もう一つの理由は日本の賃金水準は経済力に比較してまだ高すぎることである。終身雇用制が根を下ろしているので、従業員を大規模に削減できない。企業は世界の企業との競争に耐えるため、長期間にわたって賃金水準の引き下げと人減らしを行
うだろう。その結果、個人消費は当分伸びそうもない。若者は携帯電話やiモードに沢山のお金を使うだろうから、伝統的な消費財の需要は伸びない
中小企業の倒産が増加すると、企業マインドが冷え込み、設備投資意欲が減退する可能性が大きい。それをカバーできるのは、唯一の大型成長産業であるIT関連産業の設備投資の盛り上がりしかない。光ファイバー網の建設に対する政府助成やNTTの改革が急がれるのはそのためだ。