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12月12日
市場経済化する農家
農家を救った直売所
I T技術と市場経済が次第に日本経済に深く滲み渡り、色々な産業の効率を向上させている。農業でもそうである。愛媛県の内子町にある第三セクターの農産物直売所もその一例である。農家は毎朝国道近くにある直売所にパックに積めた野菜、果物、漬け物等を運び、そこでバーコードをパックのひとつひとつ張り付けてから、セルフサービスの売場に並べる。そのバーコードには農家の名前、品目、価格が記載されている。
農家は前日にEメールで販売予定の農産物の種類、パック数、価格等を直売所の事務所に通知しなければならない。そのため農家は夜になると翌日販売する農産物の種類や量を決め、さらにそれらの品質や農家としての自分の評判(ブランド力)等を判断して価格を決定する。翌朝、直売所に行くと農家ごとにバーコードが準備されている。
直売所の事務所は、昼の12時と閉店時の2回、メンバーになっている全農家に対して、それぞれの農家の販売量・販売額と、直売所全体の品目別な販売量や販売額をEメールで知らせくれる。それによって、農家は自分の農産物が朝からすぐに売れたのか、或いは他の農家の農産物が売り切れになった後、午後になってやっと売れたのかが判る。また直販所全体で、どのような農産物が、どのような価格で売れたかという情報も知ることができる。そうした情報によって、農家は短期や長期の生産計画を立てたり、必要な場合には、成功している農家から技術情報を教えてもらったりする。
この直販所はオープンして6年目であるが、販売額は10倍近くになり、年間販売額は三億円を超えた。それは農家が市場の情報を吸収して、それを生産に反映した結果といえる。直売販所メンバーは周辺の八十戸の農家であり、千万円以上の売り上げを上げている農家もいる。お客の40%は十五キロ離れた松山市から来る。20%は県外客だ。固定客を持っている農家が多い。
かっては、ここの農業は山間地であるため主な生産物は葉煙草と栗、柿、桃等の落葉果実だったが、葉煙草の需要はガタ減りになり、落葉果実の需要は緩やかな減少傾向を辿り、。農家には若者が殆どいなくなったが、直売所が農家の苦境を救った。
現在、農家で直売所に出す農産物の種類、量、価格等を決めているのは、主として子育てが済んだ農家の主婦だ。主婦は家計を切り盛りしてきたため、経済的感覚が優れている。主婦達は肉体労働の単純な農業作業員から、今や市場の需給動向に敏感に反応して、生産・出荷計画を建てる企業家に変わった。直売所の売上高は、多くの場合、主婦の口座に振り込まれ、彼女たちは生き生きと働いている。
自民は新しい支持基盤を
さらに年配者が働けるようになった。年配者夫婦の農家は身体が許す範囲で仕事をし、生産しただけの農産物にバーコードを貼って直売所の売場に置けばよい。品質が良ければ、固定客がつく。農協は量がまとまらなければ受け取らないが、特売所ではそういうことはない。
また、農協は一旦集荷してしまえば、誰が生産した農産物であるかと云うことには、全く無関心だ。消費者は誰が生産したか分らずに食べている。しかし、直売所で買えば、誰が生産したかがはっきり判っている。美味しかった場合には、お客はその農家の固定客になるだろう。逆に不良品だったり、不味かったりした場合には、直接農家に文句を云ったり、交換して貰らったりすることができるだろう。その結果、当然のことながら、農家は品質の向上とサービスの充実に努めるようになる。
そうした結果、直売所の売上高はうなぎ登りに上昇した。直売所は町役場と農家との共同出資で設立されており、間もなく農家に配当できそうだという。この地域では農協の影響力はゼロになり、それは単なる金融機関に変わってしまった。自民党の票田は農村にあり、集票システムの中心は農協だったが、市場経済化した農家にとっては、農協はもはや無用な存在になった。自民党は否応なしに新しい支持基盤を探さざるを得ない。