静岡新聞論壇

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6月2日

道路特定財源と使途

住み易い都市環境のために

小泉首相は道路特定財源という制度を見直す決意を表明し、既得権益の破壊に挑む「聖域なき構造改革」の第1歩を踏み出した。

道路特定財源とはガソリンや自動車を購入した時等にかけられる税金を、すべて道路の拡大・整備のために使うという制度である。その財源は六兆円近くに達しており、毎年長野新幹線を3個も完成できるほどの膨大な額だ。

道路特定財源という制度は、敗戦後の経済復興期につくられた。その頃、日本の道路は欧米主要国に較べるとまるで惨めな状態にあり、これをできるだけ早く欧米水準まで引き上げるためには、道路拡充に特定された大きな財源が必要だった。

約五十年間にわたって、特定財源が道路の拡充に投入され続けた結果、現在では巨大都市を除けば道路の状態はほぼ欧米並になった。それと同時に、課題は道路の拡充ではなく、自動車が社会に与えたマイナスの影響をどのように解消するかに変わった。

まず第一に環境問題だ。排気ガスや騒音等に苦しむ地域が少しも減らない。また環境問題は地域から地球規模に拡大した。豊かな自然環境をもった街づくりが重要になった。第二に自動車が伝統的な商店街や住宅街に遠慮会釈なく入り込むので、通行人が減り、人間的な臭いがする空間が消えた。自動車乗り入れ禁止の商店街や地域が活気を取り返すようになった。自動車を制限し、安全で年寄りに優しい都市をつくることが重要になった。

第三に鉄道、船、航空等他の交通手段との関係を考える必要が生まれた。東京では、丸の内、霞ヶ関、新宿等が目覚ましい発達を遂げたのは、地下鉄を始めとする鉄道網が発達し、多くの人が自動車を利用せずに、楽に集まれることだ。地方都市でも、電車やバスをうまく利用すれば、ドイツやスイスの都市のように、住み易い都市環境をつくれるはずだ。

優れたマンパワーが無駄に

特定道路財源は、自動車を使う人たちが支払っているから、彼らの利益になるように、専ら道路の拡充に使うべきだという考え方がある。しかし、自動車の利用者は空気を汚染し、環境を破壊している。また自動車社会が人間的な空間を持った伝統的な都市を消滅させてしまった。廃棄物としての中古自動車の処理にはコストもかかる。特定道路財源は、自動車が社会に与えた被害を解消するために使うべき時期にきたと言える。

ところが、道路の絶え間ない建設によって利益を得ている業界はあまりに多い。土木建設業界、土木資材や土木機械の業界、自動車業界やガソリン業界、道路行政を行う国土交通省等がその代表だ。

これらの業界は自己保存のために、道路特定財源という制度を守ろうとする。土木建設業者を始めとする道路関係業界は、選挙の集票能力に優れ、政治力が強い。与党にも野党にもその支持なしでは当選できない議員が多い。彼らは政治的生命をかけて現行の道路特定財源制度を守ろうとしている。

日本経済は長い不況に苦しみ、またアメリカ経済に引き離され、中国や韓国・台湾に追い上げられている。日本経済が弱くなった原因の1つは、財政資金が無駄な公共事業に使われ、縮小すべき土木建設業界を支え、優れたマンパワーが無駄に働かされていることにある。小泉首相はこの問題は解決するために真正面から直球を投げた。見事な政治姿勢と言えよう。

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