静岡新聞論壇

2004年 

移民の役割

多民族国家アメリカ支える

アメリカの強みは多民族国家にある。合法・非合法の移民によって、低賃金労働力が絶え間なく供給され、国際競争力が強い農業が成り立っている。人口増加が経済の強さを底上げしている。

優れた頭脳を持った移民も多い。ニューズウイーク誌によると、全米で、博士号を持っている科学技術者の内、40%近くが外国生まれであり、自然科学系の大学生については半分以上が外国人だ。アメリカにおける製造業の技術開発力は、移民と外国人によって支えられている。

留学生が多いことは、次のようなメリットもある。留学生は大学でアメリカ的な価値観やアメリカ的市場経済の理論を学んで帰国し、経済界や学会で活躍し、アメリカ的な経済システムを創ろうと努力する。その結果、アメリカの企業はその国に進出しやすくなる。またアメリカの外交政策を支持する人が多くなるだろう。

ところが、最近、アメリカへの留学生が激減し、今年の大学院入学者をみると、中国人が45%減、インド人が28%減である。その原因には、イラク戦争によってアメリカの魅力が失われたこと、外国人が住みにくくなったこと、中国やインドの大学では教育水準が向上し、同時に国内における就職チャンスが増えたことなどが挙げられる。

確かに、アメリカ的自由について世界的な評価が下がり、またアメリカ製造業の技術開発が弱くなってきた。日本でも、アメリカで不正な経理事件が続発したので、アメリカ的経済システムを無条件に高く評価する人が減ってきた。日本的経営が再評価され、長期雇用や下請け企業との長期安定取引が強い製造業を創り、従業員重視の経営が長期的な経営戦略を可能にしているという論調が増えた。

IBMは遂にパソコン部門を中国の巨大IT企業・聯想に売却し、約2000人のアメリカ人社員が中国企業で働くことになった。電子工業のハードでは中国が、ソフトではインドがそれぞれ力を増してきた。アメリカでは、留学生や優れた人材の移民の減少が、アメリカの経済力を長期的に減退させる要因になると嘆く人が少なくない。

ところで、日本では、外国人の移住が少ない状態で推移すると、今後10年間で労働人口は370万人減る。この間に、65歳以上の老人も750万人増えるので、経済成長が難しくなり、福祉負担の重圧によって、国民生活は次第に貧しくなりそうだ。

日本も早期に環境整備を

もし優れた能力をもった外国人が大勢日本で働いてくれれば、いろいろな先端産業が繁栄して、経済発展を遂げることができる。また介護・看護・家事等の技能をもった人々が日本に移住してくれば、介護や医療のコストが確実に低下し、日本の福祉水準が向上するはずだ。

外国人永住者の増加とともに税収が増え、また若い移民が増えれば、国民年金や厚生年金に加入するから、年金基金の内容はぐっと良くなる。生活が安定している外国人は犯罪を起こさないので、永住外国人や移民が増えれば、私たちの将来は確実に明るくなってくる。

能力ある外国人を永住させるには、日本人と差別なく働くことができ、同じように昇進・昇級し、また、家族が日本で差別を受けずに、豊かな生活を送れるという確かな見通しを与えることが必要だ。

幸いなことに、実力がものを言う分野では、能力ある外国人の永住者が増加しつつある。大学、シンクタンク.大企業の管理部門で働く外国人が少しずつ多くなった。日本はアメリカより、もっと外国人を必要としている国になった。鎖国的体質を改めて、外国人とともに働き、生活することに慣れるべき時期になっている。

ページのトップへ