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10月29日
自治体は景観づくりを
画一的で無機質な街並み
これからの経済発展の成果は美しい景観をつくれたかどうかで判定されるに違いない。ところが残念なことには、多くの地方から美しい景観が消えた。どの地方にも同じような豪華な役所・ホール・学校などの公共の建物がつくられ、表情がない画一的な景観が拡がっている。それは中央政府が地域の事情を理解しないままに、画一的な政策を実施し続けた結果である。
日本が貧困だった時代には政府が強い権限をもって、全国一律の教育やインフラ整備を実施して生活水準を一様に高めることが必要だったが、成熟経済国になった現在では、その必要性が消えた。こうした無駄な財政支出は日本経済の成長力を低下させる一方だ。
今まで、自治体の主たる仕事が可能な限り多くの補助金や交付金を獲得することや、国の委託事務を忠実に捌くことにあったから、職員の企画能力を高めるチャンスがなかった。ところが、今後自治体が取り組むべき課題はまず美しい景観づくりである。自治体職員は地域の歴史、伝統文化、伝統的な建造物などに関する知識は深く、それらに対する愛着は強いはずだ。もともと住民との接触密度は厚い。彼らが企画能力や行政能力をトレーニングする絶好の機会がやって来た。
城下町や農村には、美しい屋根や壁を持った重厚な家屋、植木が良く手入れされた庭、綺麗な疎水の流れ、誰かが毎日掃除していると思われる清潔な細い道など、素晴らしい景観がいくらか残されている。それらに較べると、マンション、無機質な公共建造物、自動車が走る広い道路、大きな看板、大型小売店、自動販売機の群等を背景とした現代の景観は無機質で気品に欠ける。
美しい街づくりには、個人の家・庭・塀などが、景観を形成する重要な要素であるという意味で、いずれも公共物に一種だという住民の共通認識が必要だ。自動車は人身事故・騒音・振動・排気ガスを発生させるという意味で街には迷惑な存在だ。自動車の社会的費用は本人が得られる便宜以上に大きいだろう。
地方固有の条例や制度必要
景観に優れ、自動車が走らない地域は心地よい。そうした一角を持つ都市や地域に人が集まるのは当然だ。長浜、高山、小布施、東京の恵比寿、湾岸副都心等はその代表である。そこでは観光客が増えるだけではない。文化伝統と深く結びついた見事な景観が存在すれば、内外の多くの文化人が喜んで定住するはずだ。そこにはレベルの高い知的産業が発達し、重要な国際会議が頻繁に開かれる可能性がある。京都はそのよい例だ。京都大学からはノーベル賞受賞者や世界水準を抜くハイテク企業が続々と現れた。京都会議では地球温暖化対策に関する重要な決議が行われた。
地方の景観づくりには、自治体と住民が協力して、固有な景観条例や伝統的な街並みを再建する組織や制度をつくることが必要だ。政府の画一的な規制だけを尊重していたならば街は台無しになる。補助金の給付よりも自由に政策が実施できる権限の確保の方がはるかに重要だと主張する自治体幹部が増えてきた。
自治体が独自に行動するようになったならば、例えば1つか2つの自治体がシルクロードや古代仏教に関心をもち、アフガンやパキスタン北部の都市と姉妹関係を結んでいたとしても不思議ではない。その自治体が身体をはって紛争解決のための国際的貢献を果すこともあり得るだろう。多様な行動をとる多数の自治体の存在が、日本経済の発展だけではなく、日本の外交や安全にとっても必要である。