静岡新聞論壇

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7月18日

「変化」を悟れぬ不幸 

柔軟なソフトが人気

携帯電話の普及とともに、若者の行動が変わってきた。彼等は、友人と待ち合わせる場合、まず、時刻や場所をぼんやり決めておき、時刻が近づくににつれて、携帯電話で連絡し合い、時刻と場所を特定するのである。あらかじめ、時刻と場所をはっきり特定しておくと、その日の行動が約束に拘束されて不便になるという。まず、ぼんやり決めておいて、約束にあまり拘束されずに自由に行動し、次第に約束の内容を具体的にするのである。

若者たちは、携帯電話を使って絶えずEメールを交換している。電車の中でもEメールに夢中になっている人が多い。彼等にとっては、携帯電話で連絡し合うことは何の苦もない作業である。 もし携帯電話にトラブルが発生したら大変だ。彼等は社会生活が送れなくなる。そんな時の予備として、携帯電話を二つ持ち歩いている若者すらいるという。約束はぼんやりとし、携帯電話はしっかりとしておくのである。

コンピューター・ソフト産業は、日本経済の発展をリードする重要産業だ。最近の高品質なソフトウエアーとは、必ずしもプログラムがしっかりし、正確である必要はないそうだ。それよりも、コンピューターのハードや基本ソフトが急速に進歩するので、そうした進歩に合わせて、柔軟に変えられるソフトが好まれるそうだ。ソフトも、あらかじめ決められた複雑な作業を正確にこなすものではなく、時間の経過とともに、使い方が変化しても、それにうまく対応できるものが喜ばれるようになった。

私達の働き方は、パソコンの発達とともに変わってきた。在宅勤務が増えている。多くの人が、仕事のやりくりの都合に合わせて、家で仕事をしたり、会社に出勤したりするようになった。出勤形態をあらかじめ決めずに、その時の都合によって、自由に変えるのである。その方が仕事の能率が上がるわけだ。

遠鉄バスが、雨予報バスを運行するようになった。前日の天気予報で雨の確率が50%以上の日には、50台のバスを増車するそうだ。雨の日には、普段、徒歩や自転車で通学・通勤している人々人が、バスを利用するようになるからだ。日本の公共輸送はすべてが正確に運行されている。列車は、世界で最も正確に時刻表通りに発着する。大都会の中心部は無理であるが、郊外のバスはかなり正確だ。その日の天候次第によって、バスの運行台数が変わるというのは前代未聞だ。ついにバスまでその日次第になってきた。

IT革命のもたらすもの

近い将来、バスは正確な時刻表をつくらず、天候・期末の残業・受験・好況・不況等の要素を考えて、自在に運行されるようになるかも知れない。お客の方は、Iモードによって、その日のバスの運行状況を調べ、また、バスが停留所に近づいてきたという情報を得て行動すればいい。人々が、そうしたシステムに慣れれば、現在よりもはるかに便利になるに違いない。

私達は、今まで、どんな事態にも適用できるような、しっかりした正確なシステムをつくることに努力してきた。その結果、安定した社会システムができ上がった。ところが、IT革命によって時代が急激に変化するとともに、そういう考え方が次第に通用しなくなった。

ずっと変わらないシステムをつくるのは無理であり、いつでも変えられる、”その日まかせ”であって,しかも安定したシステムをつくることが重要になってきた。直流電気の天才エジソンは、交流の時代になったことを悟れず、電話の天才ベルは、遠距離電話の時代になったことが解らずに不幸な晩年を送った。

「正確な時代」から「ファジーな時代」に変わったことを悟れずに、不幸になりそうなのは、「正確」の固りのような官僚システムが、社会に固くビルトインしてしまった日本かもしれない。多くの役人は、エジソンやベルのように、暗い晩年を送りそうだ。

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