静岡新聞論壇

2003年 

今年の世界情勢

今後も続くドル不安

現在の世界経済には、2つの大きな問題がある。その1つはドル不安だ。アメリカでは、景気上昇の結果、貿易収支の赤字が膨張して、過去1年半で、ユーロは40%上昇し、円は20%の上昇だった。その程度の円高で止まったのは、政府が膨大な市場介入を行ったからだ。もし、それがなかったならば、円は90円台になっていただろう。

政府の介入額は今年だけで20兆円に達した。アメリカが景気上昇を続けたのは、政府が膨大な国債を発行して、1500億ドル(今年度)の減税を実施したからだ。国債の主たる買い手は、日本や中国などの外国政府だった。日本政府は、月によっては国債発行額の半分を買った。世界の民間投資家はドル安を恐れてアメリカの国債を買おうとしない。

もし日本政府がアメリカ国債を買わなければ、アメリカ政府は国債の金利を引き上げるだろう。そうしなければ、国債は売れ残り、減税の原資が不足するからだ。金利が上昇すれば、住宅や自動車の需要が減少し、設備投資が縮小する。つまり、アメリカの景気は悪化するのである。日本政府が円高防止のために、アメリカの国債を購入しているので、アメリカの景気上昇が続いている。

円高を防止できれば日本の輸出が増える。またアメリカの景気が好調であれば、アメリカ市場では株高になり、それに引かれるように、日本の株価が上がる。それとともに、銀行所有の株式価格が上昇して、銀行の経営は危機を克服できる。こうして日本経済は緩やかな上昇を保てるだろう。

ところが、アメリカは貿易収支の北朝鮮赤字を膨張し続け、日本政府がずっとアメリカ国債を買い続けるわけにはいかない。アメリカ国債は円高ドル安になる都度、それだけ減価するので、大きな損失をこうむる。日本や中国の政府が購入の限界に達した時、ドルは暴落しアメリカの金利が上がる。

これを防ぐには、アメリカ政府は、減税政策を止め、財政赤字を減らし、国債発行額を削減しなければならない。しかし、それが可能になるのは、来年の大統領選挙後であるから、これからもドル不安が続く。

つぎの問題は中国経済の過熱だ。中国経済の成長は凄まじい。既に、GDPは1兆ドルを超え、フランスやイギリスに迫ってきた。高成長の原因は、地方政府が公共事業を拡大していること、外国企業が急ピッチで工場建設を進めていること、金融が緩和していること等があげられる。設備投資や住宅投資は最近年率で30%も増えているという。明らかに増加スピードが速すぎる。設備や住宅は、間もなく、確実に過剰になるに違いない。

不良資産比率高い中国

設備が過剰になる段階では、企業の競争が激化し、固有企業が破れ、銀行の膨大な国有企業融資が不良債権化するだろう。また住宅の投機的需要が剥げ落ちれば、不動産融資が焦げ付く。既に、銀行の不良資産比率は25%に達している。GDPに占める不良資産の比率は、日本の4倍という惨憺たる状態だ。その上に、これから不良資産がもっと増えそうだ。いくら高成長経済であるといっても、不良資産が大きすぎる。金融危機によって、中国経済は一時的に成長が止まりそうだ。

中国経済は、最近まで経済成長率が8%を超える状態が続いているので、内需は膨張し、鉄鋼、家庭電気、携帯電話、工作機械などの国内需要は世界1だ。今年の輸入総額は、日本やフランスを抜き、アメリカ、ドイツに次ぐ世界三位の国になった。そうした経済大国が不況に落ち込むと、世界経済に与える影響が大きい。

日本経済は、アメリカや中国に対する輸出の増大によって景気が回復した。企業の収益はアメリカの現地子会社の好調に支えられた。企業はこれから中国の現地子会社で稼ごうとしている。しかし、今年のような良い状態が来年の終わりまで続くとは思われない。

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