静岡新聞論壇

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8月3日

日本経済に広がる不信と不安

銀行と企業の信頼関係崩れる

日本経済には不信と不安が広がり、経済組織が蝕まれている。そのため不況が深刻化する一方だ。不信と不安をもたらしている最大の要因は銀行の膨大な不良資産である。銀行は不良資産の増加を恐れて融資を抑えようとしている。緊密な取引先から申し込まれた融資も謝絶する場合が少なくない。

それはつぎのような理由によっている。仮にA銀行が親密取引先イ社から融資を申し込まれたとする。どの銀行も不良資産を減らすために融資を引き上げているので、イ社は他のB銀行などから融資の返済を迫られている可能性がある。A銀行はイ社が融資された資金をB銀行への返済にまわすかもしれないと考え、この融資はB銀行等の利益になるだけだから、無理して融資する必要はないと判断する。こうして銀行と企業の信頼関係が失われ、資金が産業界にうまく循環しなくなった。

銀行は不良債権処理を急いでいるから、これから連鎖的に倒産する企業が増えるだろう。多くの企業は、販売先企業が銀行から融資の継続を拒否されて倒産するかもしれないという不安を抱いている。取引先企業が倒産した時の被害を最小にするためには、まず売掛金の回収期間をできるだけ短くすることが必要だ。そうした結果、企業間信用は縮小し続け、企業が長い期間をかけて築いた取引先との信頼関係が崩れ、経済の効率が低下した。

悪いことには、最近、株式価格が暴落しただけではなく、国債価格も下がってきた。株価が暴落したときには、投資資金は安全な国債の購入に向かうので、国債価格は上昇するはずだ。しかし政府は国債を償還するために今後も新規国債を増発し続けるので、日本の証券市場には国債が溢れ、何時かは国債価格が値崩れするはずだ。投資家はその時期が遂に来たと判断したらしい。

ところで、銀行は膨大な額の株式と国債を所有している。株式価格が暴落した上に、国債価格が低下すると、銀行の資産内容が悪化するから、早めに売却しようとする。その結果、株価と国債価格ともにもっと値下がりするだろう。そうなると、多くの銀行が資本不足になり、預金者は不安に駆られて預金を引き下ろし、またその銀行の株価が額面を割るという危険な事態になるだろう。銀行は資金繰りをつけるために、取引先企業から融資を引き上げざるをえない。その時には不信と不安がもっと広がり、日本の経済組織が一層機能しなくなるだろう。

世界同時不況の恐れも

アメリカ経済はITバブルの崩壊によって不況に落ち込み、またアジア経済は対米輸出が激減したため、深刻な不況に苦しんでいる。世界経済の見通しは暗く、同時不況が発生しそうだ。日本経済は、リード役だった輸出が減少の一途を辿り、また増大した不信と不安が拡がり、明らかに現在危険水域に入りつつある。

不信と不安を取り除くためには、銀行の不良資産処理と、道路投資の削減や特殊法人の廃止等の財政改革が必要だ。しかし銀行の不良資産の処理とともに多数の企業が倒産し、財政支出の削減によって一層デフレになる。規制緩和によって多様なビジネス機会が発生するが、それだけでは増大する倒産や深刻化するデフレを吸収する力がない。

そうなると、銀行の経営内容の把握、見込みがある銀行に対する公的資金の投入、建設・不動産・流通等の構造的不況業界の整理、長期にわたる失業保険の支給、IT技術などの新職業教育、介護や育児施設など必要な社会資本投資、地方分権による行政の効率化等の緊急対策が必要になる。それでも大型不況が発生するだろう。

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