静岡新聞論壇

12月23日

企業の利益増、伸びぬ賃金

海外生産の方が安上がり

今年の景気は輸出と設備投資に支えられて上昇を続け、十一月には戦後最長となった。企業は未曾有の高収益をあげ、利益率はバブル経済期のピークを遙かに越えた。しかし、賃金が上昇しないため、個人消費が伸びず、大型店やコンビニの既存店では、売り上げが前年比で大幅なマイナスだ。乗用車(軽自動車を除く)の販売台数は11月までの実績で前年比5.3%の減少である。景気の先行きが不安だ。

賃金が上昇しないのは、日本経済に2つの大きな変化が発生したからだ。第1はグローバル化である。日本の賃金が高くなると、普通の技術で生産できる産業では、企業は工場が中国等の良質な労働力を低い賃金で雇える国に移転してしまう。そのため、誰でもできるような仕事の賃金は、海外の低賃金に引っ張られて下がった。

利益が増大した時、それに応じて賃金を上昇できるのは、海外の企業が真似できないような特殊な技術を開発し、特殊な製品を生産している企業だけだ。

第2は、日本経済が「従業員資本主義」から「株主資本主義」に変わったことだ。かっての日本の企業は、収益が増加した時には、増配するより、まず賃金を引き上げ、従業員の努力に報いたものだ。企業にとっては、優秀な従業員が会社に強い帰属心を持ち、定年まで熱心に働き続け、生産性を向上させてもらいたい。それには、まず収益増をすぐ賃金上昇に還元するという経営姿勢が必要だ。
また、「従業員資本主義」の時代には、株主は会社経営と関係がなく、株価が上がりそうだから株を買い、下がりそうだから株を売る貪欲な人達だと思われていた。企業は彼等の利益を考慮する必要は全くなかった。企業は必要な資金は銀行から借りた。

ところが、現在の経営では、株価が重要な意味を持ってきた。株価が高い企業は増資によって、銀行借り入れよりも、遙かにコストが低い資金を調達できる。また時価総額が大きくなるから、敵対的買収を避けることができる。それどころか、株式交換によって会社買収を繰り返し、発展することが可能だ。

上場企業は、四半期毎に収益内容を公表することを義務づけられ、公表の会場では、アナリスト達がしつこく質問する。株価を高く維持するには、彼等を通じて、投資家に対して、絶えず収益増の期待を与えなければならない。こうして、日本の企業は、短期的な利益を追求して、賃金を抑え、配当を増やすようになった。

真似できない技術開発

ところで、企業では、仕事が細分化・マニュアル化されたので、どの企業でも共通する仕事が増えた。そのため、基礎的な技能さえあれば、企業を移っても直ぐ働ける。それとともに、企業への帰属心がなく、軽い気持ちで、勤め先の企業を換える人が多くなった。

企業にとって、こういう傾向は悪いことではない。というのは、必要な時期に必要な人員を雇用し、不必要になった時に解雇すれば、トータルとしての賃金コストは安くなるからだ。こうして、契約社員や外注やフリーターの利用が増加した。彼等の賃金は、いずれも、低賃金国が影響して増えない。
グローバル化と市場経済化が進む限り、こうした傾向は止まらない。長期的な対策としては、できるだけ多くの企業が海外のどの企業も生産できない特殊な製品を生産して、低賃金国の影響を排除することだ。それには、教育水準の向上が必要だ。

つぎに、企業は長期保有の個人株主や企業間の株式の持ち合いを増やして、敵対的買収の可能性を除くことだ。また上場廃止も1つの方法だ。そうすれば収益を賃金上昇に向けられる。最後に、低所得層の人はなかなか這い上がれないから、きめ細かい社会保障が必要だ。     以上

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