静岡新聞論壇

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8月26日

リストラ転職に受け皿を

企業限りの特殊技能

45才を越した中高年サラリーマンは、一旦リストラされると、転職先が見つからず困り果てている。その理由は、長年鍛え、かつ蓄積してきた彼らの技能や知識が、別の企業では通用しないからだ。

その原因はまずIT技術に発展がある。精密な設計、試作品のテスト、時系列のデータの複雑な処理、需要に応じた機動的な生産や在庫管理、経理等、熟練サラリーマンが得意としていた仕事は、コンピューターを利用すれば、パートでもごく短時間でやってのけられるようになった。

IT技術の進歩は早く、現場の仕事の内容は刻々変化している。ところが、多くの中高年者は管理的な仕事に携わっており、最先端技術を利用する現場の仕事から長い期間離れている。彼らは、現場で働いている人達を管理できるが、速いスピードで進歩している現場の仕事の内容を指導する力はない。

また同じ産業に属している企業の間では、工場における仕事の手順、機械設備の性能や配列、保守管理や検査などかなり異なっている。また部品メーカーや下請けメーカーとの関係も違っている。ある企業に30年近く勤め、工場で技能を磨いても、それらはその企業限りの特殊な技能であって、他の企業で直ぐに通用するわけではない。

本社の仕事でも、その企業限りの特別な知識や技能が多い。そこでの仕事を効率よく仕上げるコツは、上司や部下の性格とか、関連が深い部門の幹部や担当者の性格や癖をのみこみ、不要な摩擦を避け、重要な提案についてうまく根回しすることだ。そういう仕事のベテランになっても、他の会社では全く役に立たない。

現在、多くの企業がリストラを実施し、終身雇用や年功型昇進等の日本型経営システムが崩れつつある。現在、これまで、このシステムに乗って、その企業限りの特殊な技能・知識を習熟し、そこで昇進してきた人達が、突然リストラの対象になって、転職を強いられている。偏った技能や知識を持った人は、つぶしが利かず、使いにくいから、どの企業からも敬遠される。

彼は入社した時に、企業の都合で配属先が決まり、特殊な技能を身につけた。今の若い人達は、こうした悲劇をうすうす知っているから、嫌いな仕事に配属されると、間もなく辞めてしまい、好きな仕事を探すのである。就職後3年以内で、会社を辞める人の割合は、大卒で30%以上に達している。

OJTで中高年者を戦力化

これから、日本経済の改革が進むとともに、企業の倒産数はもっと増えるに違いない。潰しが利かない人をつくった責任は明らかに企業にあるから、企業はリストラを実施する前に、対象者に対して半年間ぐらいの研修期間を設けて、企業限りの技能や知識を何処にでも通用するものに変える義務がある。もともと実務経験が長い人達であるから、研修の成果は上がりやすいだらう。

また転職したい先の企業で、まず1年近く研修を受け、成果があがれば、採用されるという仕組みを創りたいものだ。政府は研修を行う企業に補助金を出し、リストラされた人達は失業保険を貰いながら、新しい仕事に関してオン・ザ・ジョブ・トレイニング(OJT)をうけられるようにしたい。

IT産業など新しい産業では人手不足であるから、OJTによって、古い産業の中高年者を戦力化できれば、日本経済は活性化するはずだ。彼らは生活がかかっているので、熱心に新しい技能を修得するに違いない。

政府はいろいろな研修制度をもけて資格を与えているが、OJTがないので、資格所有者は直ぐには役立たない。政府の研修機関は役人の天下り先として役立っているようだ。

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