静岡新聞論壇

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9月9日

教科書問題と日韓関係

日本語の車内放送続行

韓国の国民は、教科書問題に激しく反応しているようには見えない。日韓の経済的取引はほとんど影響を受けず、またソウルの繁華街の喫茶店では日本の歌が流れ、小売店に貼ってある日本語の商品案内はそのままだ。

姉妹都市の市民の相互訪問等を始め大部分の文化交流は予定通り行われた。夏休みに韓国でホームステイをし、一週間ぐらいともに学ぶというプログラムに参加した両国の女子の大学生が、8月15日頃、さよならパーティーで別れを惜しみ、泣きじゃくったという話もあった。

ソウルから慶州に行く特急列車セマウル号では、日本語の車内放送を中止するという噂だったが、実際には日本語放送が続けられた。観光地では、教科書問題が発生すると間もなく、日本人観光客のキャンセルが相次いだので、観光地の多くの業者は韓国政府の強硬姿勢を批判した。

今から約20年前にも教科書問題が発生した。この時には、反日感情が韓国中に漲り、街では日本語を大声で話せなかった。ソウルのバーで日本の演歌を日本語で歌った日本人が、お客から袋叩きになったという事件も発生した。

20年前には年間で1万人の韓国人が訪日したが、現在では毎日1万人近くに膨張し、日本に対する理解が深まり、韓国人の対日感情はすっかり変わった。

ところが、不思議なことに、日本では、教科書問題に対するジャーナリズムの反応は20年前よりも深刻になった。前回では教科書の問題になった内容はほとんど紹介されず、ただ韓国は植民地支配の悲惨さが書かれていないことを怒っているいう取り上げられ方だった。しかし今回では「新しい歴史教科書」の内容が詳しく紹介されたので、国民の関心が深まり、この教科書は広く読まれた。

「良心派」と「愛国派」が論争

この教科書は国民に日本歴史に対する自信と信頼を与える内容だった。日韓併合についても、ロシアの南下を防ぐためであり、列強諸国はそれを認めたという書き方だ。それは日本が普通の列強国として行動した結果に過ぎないという。どの国の教科書も専ら、自国に都合の良い歴史的事実だけを強調して記述している。都合の悪い事実は、当時の事情を考えると、やむを得なかったという書き方だ。「新しい歴史教科書」はそれと同じだ。

しかし、日本国内には、日本が韓国や中国に対する侵略をもっと反省すべきだという「良心派」の知識人やジャーナリストがいる。彼らにとってはこの教科書が許せなかった。「良心派」のA新聞は「新しい歴史教科書」が教科書検定委員会にかけられると、訂正前の原本を中国の関係者に送り、また韓国政府もその内容を知った。それはあたかも両国政府に怒ってくれと頼んでいるかのようだった。実際に両国政府が怒ると、日本国内では「良心派」と「愛国派」が激しい歴史教科書論争を展開した。

国民は教科書問題に飽きはじめ、その反動として嫌韓意識が強くなり、韓国への旅行者が減った。韓国で国民の教科書問題に対する関心がぐっと減ったのと対象的な動きだ。どうも教科書問題のかなりの原因は日本国内にあるようだ。

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