静岡新聞論壇

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12月21日

公共投資より減税

IT 革命が経済リード

景気の先行きが不安になってきた。来年度予算はいくらか景気刺激的にすべきだろう。景気刺激政策として、公共投資と所得税減税とどちらが望ましいか、それは一概に言えないが、最近の経済状態を考えると、所得税減税の方が優れている。と言うのは、公共投資によって建設されたハコモノが日本中に溢れている。無駄なハコモノは自動車が殆ど通らない大型道路や大橋、時々しか利用されない豪華公民館、農地造成用のダムや堰等挙げればきりがないほど多い。今後それらを維持するのに、これから膨大なコストがかかる。

ハコモノ建設に対する世論の目が強くなった。誰でも、自分の家よりも、はるかに立派な公共の建物が次々にできあがり、その利用度が非常に低いのは変だと感ずるようになった。各地で公共投資による自然破壊が目立ち、また公共物は景観を害していることが認識されるようになった。地方では伝統的な街並みが復活しつつあるが、残念ながらコンクリートがむき出しの小・中学校、役場、公立病院が日本式家屋が並ぶ趣がある景観をひどく傷つけている。地方で公共投資反対の動きが強まるのは当然だ。

社会資本が不足していた時代には公共投資が必要であり、道路や港湾を拡充すれば、経済の効率が向上し、経済成長が刺激された。河川に護岸工事を実施すれば、水害にともなう経済的ロスを免れることができた。ところが、現在では社会資本が充実し、差し迫って必要なのは、環境保護のための投資や急速に進む国際化に対応するための空港拡充ぐらいになった。しかし、それらの投資は住民の反対運動が激しいのですぐに着工できない。

どうも最近、所得税減税が景気を刺激しやすい経済環境になったように思われる。それは何と云っても、IT革命が日本全体に広がりつつあるからだ。例えば、iモードは販売後たった一年半で一五〇〇万台が売れ、若者達は毎月一万円近くを情報通信に支出している。化粧品さえもiモードとの競争に敗れ、売り上げが減っている状態だ。今月からBSデジタル放送が始まり、間もなくテレビが双方向のデジタル通信の端末機として、多様な使われ方をするだろう。

そうしたときに、所得税減税を行えば、中年層に経済的余裕が生まれ、ITを広く利用するようになるだろう。日本はインターネットの普及率ではシンガポール、台湾、韓国より劣っているが、通信料金の引き下げが同時に行われれば、すぐに追いつくだろう。それはIT機器やITコンテンツの需要を拡大して、景気を引き上げるに違いない。日本経済がIT革命にリードされて成長すれば、国民は将来に夢が持てるようになり、不安が消える。そうなると、消費性向が上昇し、消費が増えるだろう。

集票のための擁護論

しかし、政治家や役人は公共投資の拡大による景気刺激を望んでいる。政治家は公共投資を選挙区に誘導することによって、選挙の時には、地元の建設業者の支持が強まり、票を増やすことができる。役人は公共投資の配分を決める上で重要な役割を果たしており、公共投資が増えれば権力が強まる。

もし公共投資が減り、代わって所得税減税が実施されると、個々の政治家の集票システムは弱くなる。役人の権力も弱まる。そこで、彼らはつぎのような公共投資擁護論を主張する。公共投資が減少すると、建設業で倒産が増え不況が深刻化する。経済計算すると、公共投資の拡大は減税よりも遙かに需要創造効果が大きいから、景気刺激効果は強い。

確かにハコモノであっても、それを建設すると、一時的には需要を創造するが、長期的にみると、明らかに経済の効率が低下し、成長力は弱くなる。IT関係の公共投資なら良いというわけではない。家庭まで通ずる光ファイバーのネットをつくっても、完成した頃には、iモードに取って代わられかもしれない。

政府の政策は建設企業の倒産を防止することではなく、無駄な公共投資を削り、同時に建設業に従事する人々の転業を助けることである。

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