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1月24日

株安と今後の日本経済

金融危機再燃の恐れ

日経平均株価が1万3000円台に落ち込んだ。株価がそこまで下がると金融危機が再燃する恐れがある。それは銀行の自己資本が減少し、自己資本不足に陥る銀行が増えるためだ。

銀行は所有している株式の含み資産の約半分を自己資本に加えることができる。株価が上昇すると、銀行の自己資本が増えるので、不良資産を処理して、財務内容を健全化できる。銀行所有の株式の平均株価は1万4000円ぐらいである。株価が1万3000円台に落ち込むと、銀行には所有株式に含み損が発生し、それだけ自己資本が減少する。不良資産の処理ができない。それどころか、自己資本比率が低下し、経営不安になってくる。

悪いことは重なるものだ。まず今年度から来年度にかけて国際会計基準が導入され、所有株式が時価評価される。そうなると株式を沢山所有している企業の収益状況は株式市況によって、利益がでたり、損失が生まれたりするので、不安定になる。多くの企業は所有株式を売るだろう。

来年度から銀行が企業と持ち合っている株式についても、時価評価される。銀行は取引先企業の株式等を大量に所有し、全銀行でその時価総額は40兆円に達している。銀行が収益を安定化し、信用力を高めるために、それらの株式を売り続けるだろう。それは株価を引き下げる要因として働く可能性がある。

つぎに、来年4月からペイオフが解除され、銀行が倒産したとき、1000万円以上の預金が支払いを保証されないことになる。株価の低下とともに、幾つかの銀行は自己資本不足に陥ったという評判が広がったならば、大型預金がつぎつぎに引き下ろされるだろう。大型預金者は企業であり、財務担当者は損害を逃れるために、一寸した噂で預金を下ろしそうだ。突然、銀行の連鎖倒産が発生するかもしれない。

最後に、銀行の自己資本を増強するために、過去約3年にわたって、公的資金が投入されたが、今年の3月末で金融再生法が失効するから、それ以後、公的資金の投入によって、銀行の倒産を未然に防げなくなる。

ペイオフ延期検討も

株価が低下し、銀行が経営危機になると、再び貸し渋りが始まり、深刻な不況に投入する。また銀行の機能は国民経済の血液循環にあたるから、銀行の危機とともに、日本経済に対する海外の評価が低下し、日本株売りを加速させかねない。

今回の株安の直接的な原因は、バブル的なアメリカ経済が破綻し、アメリカで株価が暴落したことだ。アメリカの投資ファンドは国内の株価暴落による損失を最小に押さえるために、含み利益がある日本株を売った。そのため、ここ数カ月間で、アメリカの投資ファンドの日本株売り越しは2兆円を超した。その結果日本の株価が暴落した。昨年の春まで1年以上にわたって、日本の株価が上昇したのは、日本経済の回復力が評価され、アメリカの投資ファンド等が9兆円の買い越しをした結果だった。

アメリカの投資ファンド等は、まだ大量の日本株を持っているから、これからさらに売ってきそうだという考え方がある。これに対して、アメリカの公定歩合は6%と高い水準にあるから、今後金利を大幅に引き下げることができる。また、財政は黒字であるから思い切った減税が可能だ。つまり、大規模な景気刺激政策を実施できる。したがって、アメリカ経済は間もなく回復し、株価の低下は止まるだろう。それに応じて、日本の株価は間もなく安定すると言う見方がある。

日本経済に回復力が生まれてきたといっても、まだ病み上がりの状態にあるから、株価が1万3000円台で低迷すると危険であり、楽観的な見通しにたって長閑に構えているわけにはいかない。何時でも集中治療室に入る覚悟がが必要だ。緊急事態を逃れるために、ペイオフの延期、金融再生法の延長、証券市場を通さない持ち株関係の解消、自社株の保有・購入の制限緩和など即効的な治療が検討されるべきだろう。

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