- SRI 時々刻々
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- 働き方の変革 (11/02)
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(08/10) - 原油価格の上昇に抵抗できる都市づくり(08/07)
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(06/12) - 東洋の教育力(06/11)
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文化の発信地へ静岡県の軌跡
(04/1)
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静岡総研「SRI」時々刻々 98号
任せて、褒めること。
かって、大型の組織では、人格者ではあるが、仕事について余り能力がない上司(A氏とする)が、最も人材を育てるといわれたのものだ。A氏は能力不足のため、部下に対して仕事の内容を細かく指導できない。人格者であるから、自分の能力をわきまえており、余分な口出しない。
仕事で関係する他の部署の人達はA氏ではなくその部下に連絡し、意見を求める。A氏は決して邪魔をしない。それどころか、仕事を良くやっていると、褒めたりする。部下は働く喜びを知り、A氏を敬愛し、A氏のために土・日曜日でも働くので、能力がどんどん伸びる。
世界の先進国では、勤労意欲を失っている人が増えた。そのため、労働のインセンティブについて研究が盛んである。どの国の研究でもほぼ同じ結果が出ている。例えば、勤め先を選ぶ場合に考慮に入れる要因は、つぎのような順序になる。
1,仕事をどの程度任せられているか。2,仕事のスケジュールを自ら決められるか。3,正確に仕事の成果が評価されているか。4,優れた上司がいるか。5,報酬が大きいか。6,その仕事につけば、専門能力が高まるか。7,ずっと長い間、勤められるかである。
A氏の部下は、仕事を任せられ、自分でスケジュールを決められる。関連する部課の人達から、能力が高く評価されている。部下はやり甲斐を感じて猛烈に働くから、能力が向上して、有能な人物に成長しているから、将来が明るい。満足して働いている。
大企業の課長クラスの勤務評定(80年代)では、「部下を育てたか」という項目が大きなウエイトを持った。終身雇用制のもとでは、若手の育成の成否が会社の将来を左右した。A氏のような課長は、勤務評定のこの項目で高得点を取る。その上、部下が熱心に働いた成果は、彼の成績になるから、順調にプロモーションするのである。大企業の役員には、人柄が丸いと人がいるのは、そのためだ。
兎に角、仕事を任せ、かつ褒めることが、勤労意欲を刺激する最良の方法だ。清水次郎長は子分から慕われ、彼のためには命を投げだす覚悟の子分が少なくなかった。次郎長は子分への接し方を聞かれた時、「あっしゃ、人前で子分を叱ったことはございやせん。褒める時は人前でございやす」と答えたという。
彼は明治維新の時、子分を使って、江戸から清水港に落ち延びた幕臣とその家族の救済に当たり、維新後には富士山麓を開墾し、相良油田も開発した。
アメリカでは、最近、経営学者が最も低いコストで最大の働き甲斐を与える方法は何かを研究している。中には、ゲームの理論を使って、コストをかけずに妻を働かせる方法を厳密に計算している学者もいる。その答は任せる振りをすることと、大した成果が上がってない時でも褒めることだった。
学問研究の結果は、大企業の人柄が良い課長や清水次郎長が、部下や子分に接している方法と変わらなかった。