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静岡総研「SRI」冒頭論文  2007年2月

正反対の見解

世の中には、正反対の議論がそれぞれ正論として通用している。経済の分野もその例外ではない。幾つかの例を揚げてみよう。不況になり失業者が増えた時、対策として次の2つの相反する政策が考えられる。

第1は、政府が財政支出を増やすべきだという。不況の原因は、国民が将来に備えて貯蓄に励み、また、企業が安全経営を志して設備投資を押さえた結果、需要が減少して、消費財や資本財が売れなくなったことにある。企業がリストラを実施し、失業が発生した。

その対策は、政府は赤字国債を発行してでも、財政支出を増やし、内需を拡大すべきだ。そうすれば失業が減り、経済が成長する。経済成長すれば、税収が増加するから、将来、赤字国債を償還することができる。これがケインズ政策である。

第2は、政府は、いろいろな規制を撤廃して、企業が活動しやすくすればいい。この考え方によると、失業の原因は高すぎる賃金や企業の経営努力の不足にある。労働組合や革新政党の政治力によって、賃金水準が高い水準で固定しているので、企業の収益力が失われた。また、企業が、規制に守られて弛んだ経営を続けた結果、効率が低下した。企業は経営危機を逃れるために、リストラを実施し失業が増えた。

幸いにも、不況に落ち込み失業が増えると、賃金が適正な水準まで下がってくる。また、企業は、経営を合理化するから、体質が強まり、収益力が向上する。前向きの投資が始まり、雇用を拡大し始める。政府が規制を撤廃して、小さな政府に変われば、企業の投資活動が活発になり、雇用はもっと増える。これが、新古典派経済学の考え方であり、サッチャーが実施した政策だ。日本では、小泉政権から、はっきりと、新古典派政策に変わった。

また、中国の将来について、2つの考え方がある。第1は悲観説だ。中国では、貧富の格差が拡大している上に、省政府や市政府が農民から土地を取り上げて、工場団地や住宅団地を造って、それを転売して儲けている。

また、空気や川は汚染され、水不足が目立っている。こういう状態では、間もなく不満が吹き出し、暴動が頻発するだろう。政府は経済成長政策を止め、福祉を重視した施策に転換せざるを得ない。

第2は楽観説である。国民は確かに豊かになったが、全国の農村には、貧しい人が大勢おり、豊かになろうと次々に都市に出てくる。高度成長を続けている限り、都市の工業が彼等を吸収するので不満は爆発しない。また、経済成長を続ければ、公害防止や緑化による保水力向上等の投資が可能になり、問題が解決されるだろう。日本もそうだった。中国は、当分の間高成長を続け、アジアの巨大国になるに違いない。

民主主義と平和の関係にも2説ある。第1は、どの国民も平和を願っている。民主主義は、国民の意思が政治に反映される制度であるから、民主主義国が多くなればなるほど、世界は平和になるという考え方だ。第2は,民主主義は衆愚政治であり、国民感情は政治的にムードによって動かされるから、常に戦争へまっしぐらに進む危険性があるという説だ。アメリカはベトナム、湾岸、アフガン、イラクと戦い続けている。

また、幾つかの民族や部族から成り、かつ未成熟社会である国家は、強力な独裁政権しか統治できない。アジアや中東に、独裁政権が多いのはそのためであり、イラクのように、独裁政権が潰されるや否や、内戦に落ち込んでしまうのである。民主主義は、絶対に正しい統治制度とはいえない。

このように相反する考え方のなかで、どちらに立つかは、現実的判断によって決まる。幸い、本県には大小様々な製造業の本社や工場があり、また、海外に工場を展開している企業が多い。産学の交流を深めれば、机上の抽象的判断を、内外の具体的な事実によって、訂正しやすい。そうした意味で、本県は学術フォーラムの開催地に適している。(以上)

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