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静岡総研「SRI」時々刻々 97号

アメリカ経済学の国際性

アメリカ経済学が世界を制覇している。世界の多くの大学では、サミュエルソンやクルーグマン等有名な学者が書いた教科書を使っており、それらの教科書はミリオンセラーになっている。 アメリカでは純理論的な経済学が繁栄している。その背景には宗教的な事情がある。最初に移民した人達には福音主義キリスト教徒が多く、信仰を守り続けた。

彼らは厳しい自然と貧困に苦しみながら、重労働を続けた。孤独で苦しい生活に耐えるには神が必要だった。持っている唯一の本は聖書だった。それを繰り返し読み、勤勉に働けば、必ず救済されると信じ、農作業に勤しんだ。生まれた子供には神の祝福を願った。 アメリカは一種の宗教国家であって、東北部と西海岸の一部を除けば、聖書を通じて神と直接に関われば人格が高邁になり、正しい判断を下せると信じている人が多い。

信心深い人が多い州や地域では進化論の授業が禁止され、妊娠中絶が大犯罪である。不倫の過去を持つ人は大統領候補になれない。それは福音派の教義に反するから、当選が困難である。大統領候補は可能な限り高学歴を隠し、専ら信仰の深さを強調する。

オバマ大統領もその例外ではなかった。彼はハーバード大学出身の学歴エリートであったにも拘わらず、その経歴には触れず、専ら貧しいケニア移民の息子であり、信仰に厚く、ボランティア活動に熱心だったことを強調した。大統領就任式はまるでキリスト教の宗教行事のように進められた。

福音派の人は大学を危険な存在だと考えている。それは大学が聖書に反した思想を教え、判断力を低下させるからだ。

経済学については数学的な経済モデルの研究に止め、思想の分野に進入すべきではないと思われている。

経済学は経済活動に役立つ限りで学問と認められるのだ。経済的な平等の実現といった思想に関係したことを研究し、発表するのは越権行為である。

専ら理論的に展開される経済学なら、どんな異なった文化的背景をもつ人でも、同じように理解し研究できる。アメリカは実力主義の国であるから、外国人、移民、黒人、黄色人種でも才能に恵まれ努力を厭わず、経済学に関して理論的業績を上げれば、差別なく学者やエコノミストとしての高い地位と安定した所得が保障される。

アメリカで活躍した経済学者にはシュンペーター、コンドラチェフ、レオンチェフ、クグネッツを始め外国生まれが多い。ナチのドイツやスターリンのソ連から移民した経済学者がアメリカの済学の基礎をつくり、外国人研究者や移民がそれを発展させたと云えよう。

フランシス・フクヤマ、ダニエル・沖本等の日本人2世・3世や、青木昌彦、宇沢弘文等の日本人研究者がアメリカの大学で経済学の向上に尽くした。佐藤隆三さん(コロンビア大学)によると、アメリカの経済学者名士録(フーズフー)に選ばれている約1000名の中で、外国生まれは60%を越している。

ノーベル経済学賞は歴史が短く1969年から始まり、それはアメリカのモデル経済学が発展した時期と重なっている。現在までの受賞者62名の内41名がアメリカの大学で研究した人だ。(以上)

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