- SRI 時々刻々
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(08/10) - 原油価格の上昇に抵抗できる都市づくり(08/07)
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(06/12) - 東洋の教育力(06/11)
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文化の発信地へ静岡県の軌跡
(04/1)
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静岡総研「SRI」時々刻々 103号
先端技術産業になった農業
農業は総合的な技術産業であって、先進国で発達するものだ。それは、農業の進歩には品種改良、農薬、農業機械、土壌の改質、農業土木等の技術開発力が必要であるからだ。しかし、それだけでは、農業は発展できない。
アメリカは世界の農業強国に成長したが、かってのソ連は農業弱国に転落し、現在の日本は弱い農業に苦しんでいる。
アメリカでは広大な農地が開発されている。例えば、アーカンソー州のコメ農業では、数十ヘクタールの大きさで区画された水田が、非常に緩やかな斜面の等高線に沿って伸び、畦が大きな弧を描いて、遙か彼方まで拡がっている。コメの種は、ヘリコプターで直播きされ、肥料を含んだ水が斜面に沿って水田に流れ込む。
農業経営は効率化している。農繁期には低賃金の移民労働力が雇用され、キャンピングカーで広大な水田を移動して、仕事の場所で寝泊まりして働くのである。農業経営者は絶えず、移民労働者の賃金を抑え、同時に勤労意欲を高める方法を考えている。またコメの市場価格の推移を見極めて、最も価格が高い時期を狙って先物や直物で販売する。
ソ連は大型国営農場を造ったが、生産性が向上しなかった。失敗例の1つに野菜の大規模生産がある。モスクワ郊外には計画経済に従って、野菜の大量生産に特化した村が多くあった。そこでは数百メートル四方の巨大な温室が幾つも建設され、その内部にはパイプラインが張り巡らされ、そこを天然ガスによって暖められた温水が流れている。
ある温室では見渡す限りピーマンの苗が並び、別の温室では胡瓜の苗で溢れていた。流石に、社会主義国家の農業は素晴らしいものだと思われた
失敗の最大原因は、これらの国営野菜工場に対する生産ノルマの単位が重量だったことだ。そのため、食べると歯が折れそうになる堅くて重く、実に不味いピーマンや胡瓜が大量生産された。ソ連が崩壊し、社会主義経済から市場経済に変わると間もなく、国営野菜工場は、小型農家の柔らかく、美味いピーマンや胡瓜との競争に敗れ、倒産した。
日本では、農業はずっと政府の規制下に置かれたので、強くなれなかった。手厚い農家保護政策が実施され、農業には他産業からの参入が禁止されていた。その上、国家による生産調整が行われたので、多数の兼業農家が残り、大規模な農業経営者が育たなかった。その結果、日本は技術大国であるにも拘わらず、それを農業へ大規模に利用できなかった。
ところが、最近、太陽光発電やLEDの技術と、水耕栽培の技術と結合させた野菜工場が、都心のビルの中やレストランの一角につくられるようになった。不動産業やサービス業の企業が、農地を使わずに、そのため政府の規制を受けずに、野菜を自由に生産している。最先端のエコ技術・IT技術が大胆に利用され、また市場調査を基礎として、生産計画を建てることができる。つまり、農業は先端技術産業に変わりつつあると云えよう。
ソ連や北欧には花や野菜の大型温室栽培の伝統がある。オランダは花の産地である上に、エコやIT技術が発達しており、最近では、その技術を利用した大型野菜工場が建設され、世界最大の野菜輸出国になった。今後の世界の野菜市場は、工業製品市場と同じように、先進国間の激しい競争が展開されそうだ。日本は野菜生産大国になれるかもしれない