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静岡総研「SRI」冒頭論文  2006年12月

首都圏のコンパクトシティー化

首都圏では、人口が東京の中心部に戻ってきた。またJRや私鉄の大型な郊外駅の周辺でも、人口が激増している。いずれの地域もバブルの頃に比べると、地価が3分の1ぐらいに下がっているから買いやすい。郊外の住宅を売って都心に移住する年配者が多い。

都心部では、充実した生活を送ることができる。公園があり緑が多い。世界のトップ水準の美術館、音楽ホール、劇場、スポーツ施設が揃っており、一流の芸術やプロスポーツを楽しめる。能、歌舞伎、落語等の古典芸能を何時でも鑑賞できる。
また、多様なレストランがあり、デパ地下では、豊富な食料が並んでいる。年配者には病院が多いことと、自動車なしで生活できることが高く評価されている。若い人には何といっても通勤が楽だ。

余暇を楽しむ施設が多いので、都心のマンションは、郊外の広い戸建て住宅よりかなり狭くても、楽しく過ごせるそうだ。都心のマンションは、抽選で買い手を決めるほど、人気が高い。

郊外の大きな駅の周辺では、大型の造成地が開発され、大型マンションが次々に建設されている。鉄道の輸送能力が拡大し、また駅の施設が目覚ましく向上した。まるでバブル経済期のようだ。郊外駅からバスを使うといった遠隔地の戸建て住宅は人気がなくなった。そういう家を売って、最寄りの駅近くのマンションに移る年配者が増えている。

駅前には、デパート、スーパー、レストラン、ホテルがあり、幾つかの大学や専門学校が立地しているので若者が多く、地方の中核都市の繁華街より賑やかだ。また、電車を使えば簡単に都心に出られる。

年配者は、駅前近くのマンションに住めば、歩いていける範囲で日常生活を送れる。音楽ホールや図書館があり、図書館を巧く利用すれば、家には本を置くスペースが不要になる。その上冷暖房費が戸建て住宅より遙かに安い。

全国の交通が便利になると、過疎過密が一層促進された。都市が新幹線や高速道路で結ばれると、経済効果は経済力が強い都市に吸収され、弱い都市はそれまでよりも人口が減り街が寂れた。これはストロー効果と呼ばれている。また、新幹線が止まる都市は、周辺から人口と購買力を吸い取って繁栄するが、駅のない都市は衰退する一方だった。

首都圏は、今まで、航空、新幹線、高速道路等の整備とともに、日本全国の経済力を吸収し、成長した。それと比例して、多くの地方は自立的な成長力を失った。ところで、現在では首都圏は変化し、東京も、東京郊外も、コンパクト・シティー化してきた。

最近、登録車(普通車)の売り上げが不振である。昨年は景気が上昇しているにも拘わらず、登録車の売り上げは5%の減少だった。これに対して、軽自動車は5%増である。ガソリン価格の上昇という理由だけ、これを説明困難だ。明らかに、それは、コンパクト・シティー化の結果であり、次第に登録車が不要になったからだと云えよう。必要なのはごく近くの用事を足すのに便利な軽自動車である。駅が近いから、普通は鉄道を使うようになった。

地方の小都市にも、JRの駅前では大型マンションが建てられ、その繁華街に活気が戻ったところもある。コンパクトシティー化すれば、社会インフラの効率が上昇し、また訪問介護の移動時間が節約され、介護コストが低下する。それによって、節約された財政支出を無人になった山間部の自然保護に投入すれば、美しい日本になるはずだ。 

過疎地を抱える地域では、依然として、道路建設を要求しているが、高速で走れる道路ができれば、過疎地は一層過疎化するだろう。重要なのは、過疎地を含んだ広い地域において、いかにして、コンパクト・シティーを設計するが重要であり、それが市町村合併の目的であったはずだ。 
以上

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