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静岡総研「SRI」冒頭論文  2008年10月

成熟した地域となるためには

限定的な上海万博の経済効果

遅れた國が成長するには、まず外資工場の誘致が必要であるが、外資工場だけに依存していると、産業構造は高度化しない。というのは、外資は本社や研究所を本国に置いており、海外工場はその手足に過ぎないからだ。経営にとって必要なことは、ほとんどすべて本社で決まり、最先端技術の開発は研究所で進められる。その会社の優れた人材は本国に集中し、そこで高賃金が支払われ、最新情報が交換される。これに対して、海外工場では極端に言えば低賃金労働力が指示された仕事を繰り返しているに過ぎない。

遅れた國が先進国になるためには、自国の企業が次々に成長して、本社や研究開発機能が定着することが必要だ。外資の導入によって経済がある程度成長し、工場のノウハウが吸収された後に、民族企業が続々と生まれ、本格的な工業化が達成されるのだ。つまり自立的成長力が生まれるのである。現在、中国やインドは外資に支えられた成長から、民族系企業による成長に転化している。

地域経済でも同じことだ。遅れた県は工場団地を造り、中央資本の工場を誘致している。確かに、地域の雇用が拡大するが、それによって地域経済が高付加価値化の道を辿るわけではない。下手をすると、高給取りの工場幹部がことごとく単身赴任であって、給与の多くが東京で生活している妻子によって、東京で支出され、専ら東京の高級な消費需要を誘発するという結果になりかねない。

地域にとって重要なことは、まず多数のベンチャー企業が生まれることだ。それらが成長して、本社や研究所が充実し、また工場を内外各地に展開するのである。

幸いなことに静岡県では、約100年前から自動車や楽器等の巨大企業が続々と育ち、それらの企業の本社や研究開発機能部門が県内に立地している。これからの成長産業である医薬、環境、IT産業でも、ベンチャー企業の成長が期待される。

また中央資本が工場進出する時には、同時に研究開発機能を移転することが期待される。そのためには、次のような環境が整っていなければならない。第1には研究のレベルの高い大学が存在し、産学共同研究や優れた人材の供給が可能なことであり、第2に優秀な小・中・高校があることだ。多くの研究者は子どもの教育に熱心であって、地方に単身赴任している主たる理由は、子どもを東京の学校に通わせるためである。第3に豊かな自然と優れた文化的環境が必要である。

こうした環境が整っている地域には、観光産業も栄えるだろう。欧米の優れた学問都市は同時に文化都市であり、気品がある観光都市になっている。そこでは国際的な音楽祭、演劇祭、学会等が開催され、世界の頭脳が頻繁に集まり、最先端情報が交流する機会が増え、ベンチャー企業が発達しやすい。

内外の研究者が好む街では、豊かな緑の中を水が流れ、市内交通は公共交通機関であって、道路は歩行者と自転車のためにある。こうした都市をつくれるかどうかは、成熟した市民が多いかどうかにかかっている。 (以上)

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