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静岡総研「SRI」冒頭論文 2004年3月
公的機関の組織力の向上
企業の競争力の源泉は組織の特質にあるという考え方が広がっている。何故、ある企業だけ新しいヒット商品を次々に開発できるのか。それは研究部門が意欲に溢れており、販売組織は消費者のニーズを的確に捉えて、製品開発部門に即座に伝える。トップは、その情報と新技術とを組み合わせた新商品の生産を即座に決定し、工場に伝える。
工場の現場では作業の改善が絶え間なく続けられ、機械設備の改良が重ねられる。材料メーカーや部品メーカーとの情報交換が密であって、トラブルがほとんど発生しない。新商品の生産もスムースに流れる。この企業はそういう組織体であるから、強力な競争力を備えているのである。
こうした企業組織は、短期間で形成されるものではない。長い期間にわたって、従業員が気持ちよく働き、かつ生産性を向上させるには、どうしたら良いかを考え、努力し続けた結果である。また、研究、販売、商品開発、工場現場等の部門で優れた専門家を育て、かつ相互の意思疎通を密にするコーデネーター役を巧みに配置し、従業員の勤労意欲を引き出している。工場現場では、例えば、製造ラインが初稼働してからずっと現場で働いている熟練者が、ラインへの人員配置や異常事態への対応の責任者になっている。組織では、彼の指揮力が重視されているのである。
どの企業でも、外からは同じにみえるが、組織の内部にまで入ると、まるで違っている。トヨタが、世界のどの自動車メーカーと較べても優っているいるのは、この組織の力であり、それは他の企業が真似ようとしても、すぐには真似られない。トヨタの優位性が長く続いている。
公的機関機構でも、組織が重要だと考えるようになった。公的機関が経済的活動をした場合には、企業に較べると、生産性がはるかに低い。それは、経営の目的が利益の増大ではない上に、企業経営の専門家でない人が経営者になっているからだ。また、多くの場合、経営にいろいろな制約が加わっており、経営者は当事者能力を欠いている。そのため、公的機関では赤字を出しても責任を追及されない。
ところで、国際的に見ると、多くの国で公的機関の民営化が進み、効率が向上しており、日本の公的機関は世界の趨勢から取り残されそうだ。教育では、公立の中学・高校における学力が私立それに見劣りし、国公立大学の研究・教育水準を国際的に比較すると、かなり低い水準にある。日本の高度医療はアメリカより相当劣っている。美術館、博物館、音楽ホールの数は多いが、観客数が少なく、稼働率が低い。その原因は、学校経営、大学経営、病院経営、美術館等の運営が、経営の素人である教師、教授、医師、公務員等に任されており、また従業員全員が意欲に溢れて、活躍できる組織が創られていないからだ。
シンクタンクでも、優れたシンクタンクは研究員の発意が生かされ、優れた研究者は報酬や社会的評価で報いられる組織になっている。公的機関の組織力の向上が重要な課題だ。