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静岡総研「SRI」冒頭論文  2004年9月

地方中核都市の方向

経済成長率が高く、また新規雇用が拡大している代表的な地域は東海4県である。それは機械工業が最も発達した地域であるからだ。最近、機械工業では、本社機能を地方都市に移転する企業が目立っている。トヨタの国際部門は本社に集中し、東芝機械は本社を沼津に移した。日産の本社も横浜になった。

部品の数が多い大型の機械工業では、高度な「摺り合わせ技術」が必要である。素材メーカー、部品メーカーが、本社工場の周辺に立地すれば、情報の伝達が密になり、「摺り合わせ技術」のレベルが向上し、品質が高まりやすい。スズキが強いのは、本社から半径30キロ以内に、主要工場、部品メーカー、素材メーカーが集中立地しており、自動車を使うと1時間以内で連絡できるからだ。かっての日産では、本社と、工場や部品メーカーとの距離が離れすぎていたから、弱体になったという。

本社が東京にあるメリットとしては、1、監督官庁に直ぐ行ける、2,大銀行との取引を綿密化できる、3、マーケット動向を知りやすい、4,国際空港に近い、等が挙げられた。ところが、規制が緩和されたので、監督官庁との接触が減り、金融は直接金融に変わったので、大銀行通いは不要になった。

マーケット動向調査を専門機関にアウトソーシングし、また営業店網を巧く利用すれば 正確な情報を得ることができる。大阪、名古屋(新空港)を使えば、東京から成田に行くより便利な場合が多い。

また、地方の都市はモータリゼイションと流通革命によって、住みやすくなった。製造業が発達している地域では、インターチェンジに通ずる道路沿いに工場が立地し、また新工場が目立っている。職員は、東京よりも大きな家に住み、自動車で通勤し、家族は郊外の大型専門店でショッピングしている。近くにゴルフ場がり、また多様なレジャーを楽しめる。技術者も現場の職員も、通勤時間が長い東京よりも、職住が近接し、保育園が近くになり、自然が豊かな地方都市を好むようになった。

本県の主要都市圏をみると、浜松周辺は世界的な巨大企業や中堅企業の本社、工場、研究所が集中的に立地している。郊外型の大型店や専門店が発達し、駅周辺には、国際級の大型ホテルと劇場があって、古いタイプの繁華街が消滅しつつある。外見はアメリカの都市に似てきた。

沼津・三島周辺には、富士山麓の雄大な風景、美しい海岸、温和な気候と自然条件に恵まれ、職住が近接し、かつ、東京に一時間で行けるので、技術者や研究者にとって、絶好の働き場所だ。機械工場や製薬工場や大型小売店が、インターチェンジに近くの道路沿いに立地し、幾つかの大企業の本社もある。繁華街はほぼ消えた。

製薬、光、コンピュターソフトといった先端情報を必要とする産業は、東京との時間距離が重要であり、浜松や三島の駅近くに、そういう企業の本社や研究所が集まっている。協和発酵は研究所を三島駅近くに集中させた。

旧静岡市の主力産業は役所であり、職員はバスや鉄道で中心部に通勤するから、繁華街が残っているが、ホテルが貧弱であり、郊外大型店が増えたという問題がある。どの都市も、産業の特性を考え、長期ビジョンを検討する時期になってきたようだ。

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