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静岡総研「SRI」冒頭論文 2002年12月
対等合併後の混乱
どんな組織でも合併は混乱するものだ。強い企業が弱い企業を吸収合併した時は、混乱したとしても短期間で収まる。吸収した企業が経営権を握り、経営方針、組織、人事を決める。吸収された企業の役職員は不満であっても、反抗する力がないので、新組織に溶け込もうと努力する。吸収合併は多くの場合成功する。
ところが対等合併の場合は長い期間にわたって混乱する。まず新組織のトップが誰であるかはっきり決められない。会長、社長がそれぞれの企業から選ばれ、両人とも代表権も持つ場合が多い。人事は担当常務がA社、部長はB社 次長はA社という「たすけ掛け」である。
新しい組織づくりに手間がかかる。まずどちらの本社ビルに新会社の本社を置くかが大問題だ。調整がつかず、結局本社機能が2つのビルに分かれる場合が多い。新しい経営方針を作れない。新日鐵を始め、合併後の新会社が一体化するのに20年ぐらいかかった。
3つの銀行が対等合併してみずほ銀行ができる時には、大きな混乱が起きた。銀行経営の基本的インフラとも言うべきコンピューターシステムの機能が止まり、ATMが作動せず、通帳の誤記入が頻発した。口座振替も遅れた。旧第一勧銀は富士通のシステムを、旧富士銀行はIBMのシステムを、旧興銀は日立の技術による3行のシステムの調整を、それぞれ主張して譲らなかった。結局、トップは何も決められずに現場に任せた。現場は徹夜で頑張ったが、大型化、複雑化したたシステムは機能しなかった。
市町村合併では、住民の支持が不可欠であり、何年もかけて、住民参加の協議会を開き、住民が合併メリットを確認すること必要だ。そうしても規模が違う都市の対等合併は難しい。まず新しい市の名前は、歴史学者、郷土史家、言語学者等を中心とした審議会でもつくらない限り、大きな市の名前がそのまま新都市の名前になる。
大きな市の市役所の建物が新市役所に変わる。組織、事務の進め方、議会との関係等は市によってかなり違う。しかしこれも多勢に無勢であって、大きな市のやり方が通る可能性が大きい。小さな市の職員は、そこまで譲ってしまうと、自分たちの技能を発揮する機会が減ることを恐れる。都市合併の主たる目的は、行政コストの引き下げであり、合併後暫くすると、住民サービスが低下する。その時に、市民の不満と小さい都市の職員の不満が相乗的に作用して爆発するかもしれない。
企業の場合には、対等合併の欠陥が目立ったときには、株価が暴落して、是正させる力になる。しかし、都市合併の失敗は、選挙は4年先であるから、是正する力が直ぐには働かない。
こうした混乱を防ぐのが新市長の任務である。誰でも、働きがいのある仕事を与えられ、成果が正しく評価されれば、不満を忘れて働くものだ。 日本経済は弱くなり、地方財政は悪くなる一方だ。新市長が自然豊かな美しい街作り、研究開発型のベンチャーに育成、独特な教育システムの創造等、自立的な経済成長力を備えるようなダイナミックな政策を提示すれば、職員の勤労意欲が高まり、混乱は直ぐ解消する。