- SRI 時々刻々
-
- 静岡県を巡る内外の経済環境
- アジアの成長と日本産業の変化 (11/04)
- 働き方の変革 (11/02)
- 儒教と血縁社会を( 10/10)
- 誇り高い小国は(10/06)
- 任せて、褒めるは(10/06)
- アメリカ経済学の国際性(09/12)
- 自分とは何か(09/10)
- 日本経済再生への道(09/08)
- 国民国家が変わる(09/03)
- 留学生を増やそう(08/12)
- 成熟した地域となるためには
(08/10) - 原油価格の上昇に抵抗できる都市づくり(08/07)
- 財政破綻と医療費(08/01)
- 正反対の見解(07/02)
- 首都圏のコンパクトシティ化
(06/12) - 東洋の教育力(06/11)
- 裏道の文化(06/3)
- 労働力の質的不足(05/10)
-
文化の発信地へ静岡県の軌跡
(04/1)
- 簡易保険資金掲載文
- その他
静岡総研「SRI」冒頭論文 2003年3月
異文化の交流
経済や産業は異文化との接触によって発展する。終身雇用・年功序列型の日本型・雇用慣行は、日本的儒教と近代的な工場生産が結合して生まれ、それによって強い製造業が生まれた。
本来の儒教は祖先を同じくする一族が、挙って祖先に帰属し、大家族として纏まるための思想だった。これに対して、日本的儒教は長を中心とした集落に帰属する思想であり、現在の日本人は企業という集落に帰属し、強い忠誠心をもって企業で働こうとする。製造業では集団の力が発揮され、カンバン方式のような優れた生産方法が開発された。
アメリカの企業は、集団としての団結力が弱いので、90年代に入ると、カンバン方式をIT化して、サプライ・チェーン・マネージメント(SCM)という管理方式を仕上げて、生産性を向上させ、日本の製造業に追いついた。韓国や中国では、儒教が強すぎて、企業への忠誠心が生まれず、また人文科学を尊び、技術や技能を軽視するので、工業化が困難と思われた。しかし、工業都市への人口集中と核家族化によって、儒教の影響が弱まり、またSCMの考え方を導入して強い製造業をつくった。以上はいずれも異文化の結合の成功例だ。
ラーメンは日本が開発した中国料理である。ラーメンは進歩してカップラーメンになり、中国でも大人気だ。カップラーメンの麺は機械で生産され、最終工程では高熱蒸気で自動殺菌され、パックされる。添えられている調味料の材料は、海産物からエキスを抽出して、粉末にしたものだ。加熱殺菌装置は缶詰の殺菌技術の応用であり、粉末調味料は、海産物からつくられる多様な調味料の1種である。この殺菌装置と調味料はいずれも焼津の専門企業によって生産されている。中国料理が日本化され、さらに焼津の海産物関連企業によって、中国人や韓国人が好むカップラーメンができあがった。
また異業種の接触によっても、いろいろな新製品がうまれる。極端な例をあげて見よう。スピーカーの素材に蟹の甲羅から抽出されたキチン素材を少し加えると、重厚な低音が出る。この新型スピーカーは大都市周辺にある音響メーカーの研究所で開発され、チキン素材は焼津市の調味料企業で蟹の甲羅から抽出されている。大都市の音響技術と魚港の水産加工技術という異文化の技術が結合した結果といえよう。
フォーラムは異文化が接触する場である。10年ぐらい前までの日本は、欧米との文化的接触によって多様な新技術を開発し、また東アジア諸国に技術輸出していた。しかし、最近では、東アジア諸国の工業や技術の水準が目覚ましく向上したので、それらの国との文化的な接触が新技術開発の触媒になることが多い。
何しろ、中国、韓国などのマンパワーは優秀であり、欧米に10年近く留学して、素晴らしい研究成果をあげ、世界的な人的ネットワークを築いた人が多い。彼等は異文化の結合そのものだ。優れた人材は知的な触媒を求めて優れた人材がいるところに集まってくる。それがフォーラムである。静岡県には優れた製造業が多いが、異文化との接触によって一層ハイテク化し、また新しい思想を生みだしたいものだ。