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静岡総研「SRI」冒頭論文  2003年1月

分権的な統治システム

世界の政治・経済システムは1970年代の中頃から急激な変化を遂げた。中国では、鄧小平が経済システムを社会主義から市場経済の方向に舵を切った。直ちに農業の生産量が拡大し、良質な農産物が市場に送られた。アメリカでは激しい公民権運動の結果、人種的差別がなくなり、黒人や有色人種が政治や経済の分野で 活発に活動するようになった。優れた才能が掘り起こされ、良質な労働量が移民した。

ヨーロッパではECが拡大し統合への動きが強まり、貿易・資本移動・労働力移動の自由化が加速され、経済の成長力は狭い国家から、ヨーロッパ全体に解き放たれる準備が整った。80年代の終わりには、ベルリンの壁が取り除かれ、90年に入ると、直ぐにソ連が崩壊して、市場経済に変わった。ECはEUに発展し、東欧諸国も経済統合に加わることになった。

こうした大きな変化にともなって、 工業の生産拠点は日本、アメリカ、ドイツなどから、中国、東欧諸国に移転した。新しい生産拠点では、膨大な量の製品が低コストで生産されたために、現在、世界経済はデフレに巻き込まれている。日本、アメリカ、ドイツともに、物価の上昇率はマイナスだったり、プラスであってもごく僅かだ。

どの国も、財政、金融両面から景気を刺激しているため、財政収支は赤字であり、金利水準は未曾有の低さであるが、なかなかデフレから脱却できない。最も深刻なのは日本経済だ。

ところでアメリカやドイツには未来への新しい展望が開けている。 移民労働力によって新しいアメリカが創られている。ハイテク技術の開発、新しい音楽・映画などの創造、金融技術の開発には、移民した有色人種が大きな寄与をしている。アメリカは、製造業は弱くなったが、こうした開発・創造力と軍事力が飛び抜けて強まったので、総合力は向上した。

ドイツは東欧の発展とともに繁栄してきた国だ。東欧諸国がEUに加盟して経済成長すると、ドイツのヨーロッパにおけるプレゼンスが高まり、大ドイツ経済圏が形成されるはずだ。

最近の40年間でシステムが全く変わらなかった大国は日本だけだ。日本は強力な中央政府が先進国へキャッチアップするために全国均質なインフラをつくり、均質な人づくりに努力した。その結果素晴らしい重化学大国が完成したが、その時、すでに生産拠点の世界的移動が始まった。しかしキャッチアップ時代のシステムが根強く残っているので、経済の崩壊が止まらない。

国内需要を創造するためには、まず分権的な統治システムに変わり、国民の多様な英知を吸い上げて、コストが低く、かつ福祉が充実した社会をつくるとともに、教育を自由化して、新産業を創造できる多様な人材を育てなければならない。またEUに対応できる東アジア自由貿易圏を創るために、地方の国際化が必要だ。

経済の長期低迷から脱却する決め手は徹底した地方分権化だ。その際担い手になる地方には、自治体合併やNPMの導入が不可欠だ。

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