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静岡総研「SRI」時々刻々 105号

アジアの成長と日本産業の変化

日本の企業は、少子高齢化によって国内市場が縮小しているので、成長機会を海外に求めている。製造業の大企業は、平均すると、生産の半分が海外で、国内生産の半分が輸出され、国内市場向けは、わずか4分の一である。全従業員数の約70%が外国人である。

海外で生産された製品は、主として、現地市場向けである。現地で企画され、研究開発され、商品化される場合が多い。日本企業が最も多く海外生産しているのは中国である。利益率は、海外生産の方が国内生産より高い。中国では、利益率が特に高い。

最近の海外生産の特色は、日本の先端技術製品が、韓国・台湾で生産されるようになったことだ。一例をあげよう。炭素繊維は、日本企業の得意な製品である。耐摩耗性、耐熱性、耐引帳力に優れ、アルミより遙かに軽い。航空機、風力発電、自動車、産業機械、海底石油の掘削等に広く使われるようになった。

炭素繊維のトップ企業は東レである。東レの海外工場はボーイング生産国のアメリカ、エアバスのフランスにある。最近、韓国に大規模工場が建設された。その理由は、1,物流や工業用水のコストが低い、2,自動車等の需要産業が急成長している、3,賃金が低い、4,韓国は多くの國とFTA条約を結んでいるので、自動車等の輸出が急激に伸びるということだ。つまり韓国経済は、日本経済より、成長可能性が高いという判断が働いている。

もう1つの最近の特色は、小売業、サービス業が続々と海外進出していることだ。中国を始めとしてアジア諸国には、日本のスーパー、コンビニ、日本レストラン、ラーメン店等の拡大している。日本市場では、成長できないからだ。

また、日本の電力会社はアジアで電力業に参入しようとし、JR東海やJR東はアジアやアメリカで新幹線の運転ノウハウの輸出を狙っている。北九州市や大阪市を始めとする大型自治体は、アジアで、水道事業や下水事業への参入に熱心だ。いずれも日本では、これ以上の発展を望めない。工事が少なくなり、人員が減り、蓄積した技術を維持できなくなる。

このままでは、近い将来、工事量が増加する一方のアジア諸国との競争に敗れるに違いない。現在から、アジア市場に参入して、アジア市場を国内市場のように、取り込まなければならない。

工場、小売業、電力等のインフラ産業の海外移転は、相手国の製造業の成長や生活水準の向上に役立つと同時に、少子・高齢化によって、経済成長力を失った日本の企業やインフラ産業が生きる道である。また、多くの日本人は海外の仕事に従事することによって、日本全体の所得が増大する。

静岡総研は、地方行政に関する研究機関であるが、日本経済が国際化するとともに、与えられた研究範囲では、目的が達成されなくなった。また自治体は合併によって大型化し、研究能力が向上してきた。

どんな機関にも、歴史的使命がある。日本経済の急速な国際化とともに、静岡総研の役割は終わった。国際的スケールに立った新たな機関の設立が望まれる。

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