静岡新聞論壇

2003年 

大手行健全経営への道

自己資本の増加が課題

大手銀行が相次いで大型増資に動き出した。みずほグループは親密な取引先に合計1兆円の優先株の引き受けを要請し、三井住友銀行とUFJは、それぞれ外資に1500億円、1000億円の優先株引き受けを要請した。優先株はいずれも4.5%という高利率だ。

振り返ってみると、銀行は過去10年間で80兆円の不良資産を処理して自己資本を磨り潰し、10兆円の公的資金の援助を受けた。しかし、この間に、デフレ経済が進み、多くの企業の経営が悪化の一途を辿ったので、不良債権はほとんど減少しなかった。そのため銀行の不良資産問題の原因はデフレ経済にあるという見解が強まったが、そう言う見解を述べたところで、大手銀行の危機が弱まるわけではない。

金融庁は、「経営が一向に改善しない企業に対して、大手銀行が何時までも救済融資を続けるべきではない、ともかく断固として最終処理すべきだ」と考えた。金融庁が貸付け資産の評価を厳しくしたので、大手銀行の不良資産はかなり増えた。そうした後に、金融庁は不良資産の早期処理を要求した。

大手銀行は、その要求に応ずるためには、まず増加した不良資産に対して、リスクに応じた貸倒引当金を積み増すと同時に、破綻債権を確定して次々に最終処理しなければならない。こうしたダイナミックな処理を実施すると、自己資本を相当食いつぶすので、銀行は自己資本不足に落ち込み、信用力が低下する。大手銀行にとっては、自己資本の増加が喫緊の課題になり、外資に依存してでも増資しなければならなくなった

最近、大手銀行は 経営危機に陥っているが、将来立ち直れそうな企業については、民事再生法や会社更生法に拠って、不良資産を最終処理する場合が多くなった。それには、まず経営者や株主の責任をはっきりさせ、つぎに銀行をはじめとする債権者が、債権を放棄して会社の再建に協力する。例えば、企業に対して不採算部門を閉鎖・売却させ、大規模な人員整理を実施させる。また優れた企業との業務提携や新しい市場開拓に協力する。血が滲む努力の結果、企業が立ち直れば、放棄されなかった1部の債権は健全債権に変わる。こうした債権放棄をともなう企業再建は、銀行にとって大きな負担になるが、その企業を潰して、土地や設備をバラバラにして、2足3文で売り飛ばすよりも被害が少ない。銀行は不良債権の法的処理だけではなく、不良資産を企業再建ファンドやRCCに売却しており、将来には産業再生機構にも処理を依存するはずだ。

インフレターゲット必要

銀行が健全な経営に向かうためには、こうした不良資産の最終処理を進めるとともに、新たな不良資産をつくらないことが必要だ。しかし、そこには深刻な問題がある。銀行にとって、現在最も安全な資金の運用先は国債である。銀行は不良資産の最終処理に乗り出すとともに、活発に国債を購入している。つまり普通の企業やベンチャー企業に資金が廻わっていない。それでは日本経済に活力が生まれず、また企業再生しやすい条件が醸成されていない。思い切った規制緩和によってしか、活力を生み出す方法がなさそうだ。

つぎに、日本には企業再生を進められる人材が不足している。そういう人材は金融界にいるはずであるが、大手銀行は経済危機が続いたので、人材を育てる余裕がなかった。また優れた人材は外資系金融機関に流出してしまった。下手をすると、今後大手銀行は業績が伸びず、優先株の配当負担に苦しみそうだ。銀行が危機を逃れるためにも、インフレターゲット政策が必要である。

ページのトップへ