静岡新聞論壇

2003年 

株価維持と老人

一息ついた日本経済

株価が上昇して、日本経済は一息ついた。大手銀行の所有株式の時価をみると、4ヶ月前には1兆円を遙かに超える評価損だったが、現在では1兆円近くの評価益に変わり、深刻な金融危機が去った。またりそな銀行には2兆円の公的資金が投入され、政府は銀行の資産を厳しく査定するが、手銀行を潰さないというメッセージを市場に送った。

アメリカ経済は、3500億ドル(40兆円強)の大減税によって、先行きに明るさが見え、株価が上昇した。来年秋の大統領選挙まで、景気刺激政策が続けられるに違いない。アメリカの投資家にとっては、株価上昇とともに、手持ち株式の時価が上昇したので、対日投資を増やす余裕が生まれた、日本経済は金融危機が去り、リストラによって増益の企業が増え、先行きの暗さが減った。

日本の株価はアメリカの投資家の投資によって上昇し始め、続いてECの投資家や国内のアマチュア投資家の投資によって、さらに上昇した。ところで、日本経済の現状はまだ最悪期を脱しただけであって、このまま成長路線に乗れるわけでない。今後、株価の低下を防ぐためには、将来の生活に対する国民の不安を払拭して、消費を増やすことが必要だ。現在、個人貯蓄は1400兆円を越しており、そのうちの半分以上が60歳以上の高年齢者の貯蓄だ。高齢者が消費を増やせば、内需が飛躍的に拡大するはずだ。そのためにはどうすべきか。

高齢者の不安は何時まで生きるか判らないことだ。子供も国の社会保障制度も当てにならないので、彼等は多めに貯蓄している。もし国家が85歳以上のすべての老人の生活を、死ぬまで保障する制度を創れば、彼等は安心して消費を増やせる(堺屋太一説)。同時に金融資産に対する相続税を高率にすれば、財産を物にして残そうとするだろう。老人の消費は確実に増える。85歳以上の生活保障には、あまり大きな財政負担にはならない。

その上に、老人が喜ぶ遊びを増したり、老人が安全に外出できる街をつくるべきだ。老人用の簡単な操作で動くパソコン、ベンチが多くかつ自動車乗り入れ禁止の街路、床が低い電車やバスの普及、ゆったりした日程の団体旅行等は、老人の消費を刺激するだろう。 最近、臨海副都心にオープンした「大江戸温泉物語」は中高年を狙った敷地約3万平米の温泉のテーマパークだ。大名屋敷や宿場町のような街並みがあり、そこには、露天風呂、足湯、岩盤風呂、寿司屋、蕎麦屋、居酒屋、駄菓子屋が並び、お客は浴衣を着て散歩している。

老後保障なら高齢者の消費増

客のターゲットは先ず都会の中高年者である。都会には、中高年者の遊び場所がない。彼らの遊び場には「伝統」「風呂」が必要だ。若者向きの施設には中高年は入りにくいが、若者は中高年向きの施設には抵抗感が少ない。ここには、昼に大勢の高齢者がやって来る。夜は中年や若者で一杯だ。 最近、東京は大温泉地に変わった。ここの他に、後楽園の「ラクーア」、豊島園の「庭の湯」等が大型で有名であるが、都内や郊外で小型の庭や林の中の温泉がつくられ、昼に高齢者を集めている。

後立山連峰の五龍岳の中腹に広大な高山植物のお花畑がつくられた。ハイキング姿の中高齢者が、ゴンドラを利用して登り、高山植物の山の散歩を楽しんでいる。上高地では、大勢の中高年者の素人画家が画を描いている。北アルプスで、伝統や気品を感じさせるホテルは、宿泊料が高いが、中高齢者で混んでいる。彼等は山の散歩にやってきた。

楽しみが増え、かつ老後が保障されれば、高齢者は確実に消費を増やす。景気刺激効果が大きく、株価の持続的上昇に役立つに違いない。また、大人向きの落ち着いたレジャーやリゾートが増えれば、外国人観光客も増えるだろう。

ページのトップへ