静岡新聞論壇

2003年 

ドル買いの意味

米国の金利上昇抑える 

ドル安傾向が続いている。ブッシュ大統領は再選を狙って未曾有の規模の減税による内需の拡大を決意した。内需の拡大とともに、輸入が増加するから、来年には、経常収支赤字は6000億ドル台に達するという予想が多い。また低金利政策が続くので、アメリカとユーロ地域との金利差が短縮せず、資金がユーロ地域に流出し続ける。その結果、ドル安傾向が一層進む可能性がある。

ドル安期待が強まると、アメリカでは海外からの資金流入が減り、流出が増えるので、金融市場では資金が不足し、金利が上昇するはずだ。また大規模な減税を実施すると、財政赤字が拡大し、国債発行額が増える。それもまた金利を押し上げる力として働く。

ところで、アメリカの消費者の生活はローンで支えられているから、金利が上昇すると、個人消費が減るだろう。景気が悪化する。つまり景気刺激のために、減税、低金利政策を実施したが、逆に景気が悪化する恐れがある。アメリカにとっては、ドル安になっても、海外からの投資が減らず、金利が上昇しなければ、甚だ好都合である。アメリカには、幸せなことに、日本というドル安・円高になると、深刻な事態に追い込まれる国があった。

中国や東アジア諸国の為替レートはドルに連動して動くシステムになっているから、ドル安・円高になることは、円が東アジア諸国の通貨に対しても円高になることを意味している。円高になると、日本の自動車、鉄鋼などの大型輸出産業が大打撃を受け、回復をリードする産業が消えるので、日本経済はデフレの加速と不良資産の拡大に苦しまなければならない。

日本政府は、円高を防ぐため、決死の形相で、膨大な額の円売り・ドル買いを行い、そのドル資金でアメリカの国債を買っている。アメリカは国債発行の激増と経常収支の赤字の急増に苦しんでいる。しかし、最近の半年間の実績をみると、日本政府が経常収支赤字額の約半分に達するドルを買い、国債発行額の半分近くに達する額の国債の購入に当てている。そのお陰で、アメリカ政府は大量の国債を発行しても、国債価格が安定し、金融緩和政策を続けることができる。

日本の円高防止策のお陰で、ドルは円に対してそれほど高くならなかった。しかし、ユーロに対しては大幅にドル安になり、対欧輸出が伸びた。アメリカ政府は日本のお陰で、金利が上昇せず、かつ全面ドル安を免れることができた。お礼を言ってもらいたいところだ。

依存状態からの脱却必要

しかし、このままの状態が続くと、アメリカの貿易赤字がさらに拡大し、結局ドルがジリ安状態になる。ドル安になると、アメリカの国債は円やユーロ建ての債券に較べて減価するので、日本政府は大きな損害を受ける。またアメリカへの資金流入が減ったり、或いは景気が回復し資金需要が増加したりして、金利が上昇した時には、日本政府が購入した国債の価格が低下して、膨大な損失が発生する。つまり、ドル買いは、アメリカ経済が負担すべきリスクを日本経済が引き受けたことを意味している。

中国などの東アジア諸国は、自国の為替レートがすっかり依存しているドルが暴落すると、混乱が起きるので、アメリカの国債を買って、ドルを支えている。日中両国はアメリカの反テロの戦いを揃って支持しているが、ドルを守るという点でも、対米協調である。

日本がドル変動に対して一喜一憂しなくなるためには、円で決済できれる貿易を増やすことだ。しかし、日本経済は弱くなり、また日銀の資産内容が悪化し、円の信用力が低下した。日本だけでは無理だ。韓国、中国、台湾等と協力して、アジアの共通通貨をつくり、専らドルだけに依存する体制を変えることが必要だ。

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