静岡新聞論壇

2003年 

イラクの戦後処理

米英主導の利権争い 

イラク戦争は周到な準備のもとで進められた。陸上戦では、特殊部隊、誘導弾、戦闘ヘリの組み合わせが成功してイラク軍に圧勝した。戦後処理については、イラク爆撃の前にすでに戦後のイラクを統治するチームが組織され、その300名のメンバーの内、200名がクエイトで待機していたという。

統治チームは、戦後の人道援助、基礎インフラの修復、治安の維持・法律の制定、暫定政府の設立等の部門からなり、メンバーは主としてアメリカの国防省、国務省、司法省などの現役やOBから構成されている。アメリカの直接統治期間は3ヶ月程度を予定しているそうだ。

戦後処理に関するアメリカの方針について、つぎのような問題がある。まず、アメリカの開発庁が戦後のイラク復旧計画を決め、アメリカの企業に対して、密かに工事の入札を行ったと言われている。アメリカ政府は企業と一体になって、イラクの戦後処理を進めようとしている。これでは国連が果たすべき役割がなくなってしまう。

第2はイラクの石油を巡る問題である。イラクの復興資金や過去の債務などは、石油収入から支払われるはずだ。アメリカは、イラクの石油生産を順調に拡大するため、近い将来、暫定政府の幹部になりそうな在外イラク人グループと、つぎの諸点で合意に達したという。すなわち、メジャー石油会社が人材を国営石油企業に送り生産の効率を上げること、イラクの膨大な油田資源を早く開発するため、メジャーに有利な利益配分方法を採用して投資を刺激すること、将来OPECが生産制限した場合でも、イラクはそれに縛られずに生産を拡大して返済資金を稼ぎ出するなどだ。こう内容の合意が、実際に実施されると、世界第2位の埋蔵量を持ち、低コストで良質な原油を生産するイラクの石油資源は、ほぼ米英両国によって支配されることになる。

第3はGDPの15倍、石油収入の2年分という膨大なイラクの対外債務の問題だ。イラク政府が崩壊したので、アメリカの息がかかった新政府がこの債務を受け継ぐだろうが、かなり多くの額を棒引きしなければイラクの復興は困難だろう。債権額はクエイト、ロシア、日本、フランスの順で多く、アメリカはほとんどない。どの債権を棒引きするかが問題であり、ロシアやフランスの債権は武器売却代金の未払い分が多い。日本は専ら経済開発を目的とした借款であるから、他の借款と同じレベルで考えてもらっては困る。

難問山積の暫定政府設立 

これから最も難しい暫定政府の設立交渉が始まる。イラクは、イギリスが1次大戦後、トルコ帝国の領土の一部を削り、クルト人、アラブ人シーア派、スンニ派の勢力がほぼ拮抗してずっと分裂状態で苦しむように、国境を定めた人造国家だ。部族の力が強く人々にはイラク国民だという自覚がない。イラクが国家として統一し、治安を維持するためには、秘密警察網を張り巡らした独裁政権が必要だった。

しかしフセイン政権は滅ぼされた。大部分のイラク人はアメリカを嫌っている。それはアメリカが異教徒の国である上に、石油利権を狙って戦争を起こし、多くの市民を殺害したと信じているからだ。イラク人の反米感情が強く、部族の対立は激しいから、新政府の設立を巡って内乱が起こり、トルコやイランが密かに介入し、混乱が拡大するかもしれない。もしアメリカ軍が長期駐留すれば、反米テロやストライキが起きるだろう。ロシア、フランス、ドイツは、アメリカの傀儡政府が設立され、米英両国に石油産業を抑えられ、また多額の債権の棒引を避けたいと思っているから、暫定政府について、いろいろな注文をつけるはずだ。日本はどういう態度をとるのか。米国追従を続けると、世界における日本の存在感がほとんど消えてしまう。

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