静岡新聞論壇

2003年 

泥沼の日本経済の行方

米のデフレで輸出減に

日本経済は底なし沼に落ち込みつつある。株価が暴落して、銀行の有価証券の評価損は過去半年間で3兆円以上に達した。今年になって大手銀行は次々に大型増資を実施したが、それによって増加した資本金はこの株安によってすっかり消え、再び深刻な金融危機が訪れた。多くの大企業では数百億円の評価損が発生し、財務内容が悪化したので、リストラが続き、失業者が増大しそうだ。

日本経済は最近まで輸出の増加によって苦境を凌いできたが、今後はアメリカ経済がデフレに落ち込むので、輸出が減りそうだ。アメリカ経済は昨年の前半まで減税と金利の引き下げが効いて好調だったが、景気拡大とともに輸入が増え続け、また減税によって財政赤字が拡大した。アメリカ経済はITバブル崩壊後には成長力を失った上に、経常収支と財政収支の「双子の赤字」生まれ、さらにイスラム原理主義による大型テロが何時発生しても不思議ではないという状態だ。アメリカに集まっていた世界の資金は流出し始め、ドル安傾向が強まった。それにともなって金利が上昇して、景気が悪くなるはずだ。すでにアメリカの消費財価格は低下し続けている。イラク戦争が始まれば資金が海外に流出し、また石油価格が上昇するから、景気は確実に悪くなる。

日本の政府はバブル経済崩壊後、財政破綻を恐れずに財政支出を拡大した結果、実質1%の経済成長が続き、国民は豊かな生活を営むことができたが、これからはそうはいかない。近い将来、大型増税が続き、消費税は10%を軽く超え、また年金支給額が減りそうだ。私たちの気持ちは暗くなる一方だ。

日本経済がこの泥沼からはい出すためには、まず個人消費が増えなければならないが、消費者は将来に備えて、消費を抑え、貯蓄を増やしている。高年齢者層は膨大な額の貯蓄を持っているが、長生きした場合に備えて使おうとはしない。介護が必要になった時、貯蓄がなかったならば悲惨だからだ。また彼等にとってはどうしても欲しいと思うほど、魅力的な商品が見付からない。

”人災”の反省と謝罪を

そうした結果、銀行預金だけ増え、銀行は安全な融資先が見付からないので、国債を買い、政府の財政赤字を埋めている。お金は個人と銀行と政府の間を循環し、企業活動には廻らない。この悪循環を絶つために、銀行預金に税金をかけようと言う考え方がある(慶応大学の深尾教授)。例えば、100万円預けると、1年後に引き出す時には、5万円の税金を取られ、95万円しか戻ってこない。そうすれば、国民は貯金をせずに、消費を増やし、また土地や株式を買うだろうから、日本経済に活力が生まれるというわけだ。新円が発行され、現金を貯めている人は、旧円の10万円は9万5000円と交換されるだろう。

こうして、不安に悩んでいる国民から無理矢理に現金預金を減らし、デフレ経済からの脱却に成功すれば、国民の不安が消えるはずだという。確かに、そういう強硬手段を検討せざるを得ないほど、現在の日本経済は危機的な状態にある。

しかし強硬手段には抵抗感が残るのは、経済危機の原因としては多くの人災があったからだ。幾つかの例をあげてみよう。政府は金融、医療、教育、介護、農業等に厳しい規制を設けて現場の活力を奪った。地方自治体に対して権限を取り上げて中央依存の無気力な体質に改造した。証券・不動産業にはいかがわしい体質があるから、個人は安心して投資できない。企業はディズニーランドのような消費を刺激するプロジェクトが開発できなかった。最近15年間の政府の金融財政政策や銀行行政がミスだらけでだった。国民に対して強硬手段を実施する為には、人災を起こした人達の反省と謝罪が必要だ。

ページのトップへ