静岡新聞論壇

2003年 

特区で経済活性化を

今までの補助金行政を反省

「特区」は素晴らしい政策だ。それはまず自治体や民間企業が知恵を絞って地域活性化の事業を考え、政府に規制を緩和して貰う。今まで、自治体は「政府の指示に従うから、補助事業にして欲しい」と陳情し、規制業種の企業は「競争が起きないように、政府は規制を続けて欲しい」と要求してきたが、「特区」では「すべて自己責任でやるから、政府は何もしないでくれ」という要望になる。

今まで自治体は補助金をもらって、役に立たない大きなハコモノをつくり、そのハコモノの運営費負担に耐えられなくなった。その反省から特区では地域に役立つ経営体をつくろうというわけだ。 また規制産業は長い間自由な活動ができなかったために、国際的に見ると非常に弱くなった。農業、教育、医療、金融がそれであり、優れた農業技術者は日本を捨てて中国などに農業指導にいき、意欲ある若者はアメリカに留学し、難病にかかった人は手術を受けるためにアメリカに行き、日本の金融界は外資の天下になってしまった。規制を緩和・撤廃し、政府が介入しないようにしてもらい、先ず「特区」で地域に密着したビジネスを展開しようというわけだ。

教育、医療、物流、農業などでは、自治体や企業からいろいろな特区構想が提案された。「特区」は関係省庁から許認可や規制の権限を奪うものであるから、関係省庁と規制によって大きな利益を得ている業界団体から激しい反対運動があるのは当然だ。もっとも問題があるのは医療産業であり、株式会社制の病院や先端医療の病院等に関する「特区」構想は医師会の利益と真正面から対立した。医療業界は、医は仁術であるから利益を目的とした株式会社には馴染まない、医師の技術や良心を信頼すべきだという。しかし、それにしても病院の医療ミスが多く、医療ミスや院内感染による死亡者総数は、交通事故による死亡者数を上回ると予測する人もいる。

民間企業でもミスや手抜きがあり、食品産業ではしばしば中毒事件が起きるが、大事故を起こした食品企業は株価が下がり、スーパーが取引を中止するので、その企業は倒産の危機に落ち込む。雪印乳業は遂に倒産し従業員は路頭に迷った。病院にはこうした制度的なチェックが働かないのでミスが繰り返される可能性がある。例えば治療ミスと隠蔽工作をした東京女子医大は特定機能病院の認定を取り消されただけだ。 大病院は高額な医療設備が整い、医師や看護婦などいろいろな職種の従業員が多くいる。すべての従業員に勤労意欲を与えて、仕事の改善を続けてミスをなくし、効率的に経営するためには、院長は経営の素人である医師より、経営の専門家の方がむいている。

世界トップの医療水準も

民間企業は提供するサービスの質をPRするから、病院企業の場合には、病院や医師の品質を公表するに違いない。例えば肺ガンについて言えば、年間の患者、手術数、治癒者数、担当医の肺ガン摘出手術の累計などが公表される。治療の内容や手術の成功率なども知らせるだろう。患者は病院や診療所を選びやすい。

健康保険で決められた以上の高級な治療や先端的治療を行う病院も必要だ。そこに内外各地から優れた医師を集めれば、国内だけではなく、アジア全体から患者が来るだろう。日本人に対しては、健康保険と自費の混合治療を認めるべきだろう。その病院は内外の資産家の患者を相手に高額な先端治療を実施できるので、医療水準は世界のトップレベルなり、その結果は日本国民に還元される。貴乃花や桑田も日本で手術できるだろう。

厚生省は小泉首相の要請で渋々自由診療の株式会社病院だけを認めた。いろいろな産業で新しい試みが「特区」で行われれば、地方主権による日本経済の活性化が実現する。

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