静岡新聞論壇

2003年 

金融庁のダブルスタンダード

査定基準変更で足銀国有化

足利銀行(足銀)が破綻し、国有化された。今まで、金融庁は大手銀行に対して厳しい資産査定を要求する一方で、地方銀行には甘い査定基準を黙認してきた。それは、厳しく査定すると、破綻する地方銀行が多くなり、金融危機が発生するからだ。ところが、大手銀行では、不良資産の処理が進み、株価が上昇したので、経営がしっかりしてきた。そろそろ地方銀行を整理すべき段階になってきた。

足銀は、バブル経済期における放漫な不動産融資の結果、膨大な不良債権を抱えている。監査法人は、厳しい基準によって足銀の資産を評価して、債務超過の判定を下し、金融庁は、それを受けて、国有化を決めた。

ところで、金融庁の政策には、いろいろな点で、ダブル・スタンダードがある。資産の査定基準が大銀行に厳しく、小銀行に甘いという「一国2制度」はその1つだった。しかし、それは足銀の破綻によって解消した。

他にも幾つかのダブルスタンダードがある。その1つは、りそな銀行が債務超過の疑いが強く、再起不能に近い状態にありながら、5月に2兆円の公的資金が投入され、救済されたことだ。9月には、不良資産処理のために巨額な赤字決算を行い、公的資金の85%を使って生き延びた。ところが、足銀は国有化され、株券は紙くずになった。大銀行は、倒産の経済的影響が深刻であるから救済され、小銀行は影響が僅かであるから整理された。株主にしてみると、明らかに、ダブルスタンダードだ。

2つ目は資産査定の基準が突然変わることだ。それまで安定経営と見られていた銀行が、査定基準の変更によって、突然経営危機に落ち込み、再起不能の銀行に変わるのである。最近の例で云えば、繰り延べ税金資産がそれまでの5年分から、突然ゼロに査定されて、弱い銀行は自己資本不足に陥った。りそなも足銀も、この査定基準の変更によって経営危機に突き落とされた。

それは、ゲーム中に突然ルールが変更され、それまで違反でなかったプレイが、急に違反と判定されて、退場を命ぜられたようなものだ。ルールを変更した金融庁は陰に隠れ、監査法人が新ルールによって退場を宣告するのである。文句をつければ、そんな品のないプレイは違反になるのは当然だと言う返事が返ってくる。退場させられたプレヤーは職を失うという形で責任をとらされるが、時代遅れの旧ルールをつくり、押しつけ、このような事態を招いた肝心の監督官庁は、その結果に対して、誰も責任を取ろうとしない。

根本改革避け一時しのぎ

3つ目は、国有足銀の売却に関することだ。不良資産が多い銀行は買い手がつかないので、政府は税金を投入して不良資産を減らすか、買い手に公的資金を提供することが必要だ。国有長銀が売却される時、買い手は外資のファンドだった。金融当局は、旧長銀の貸し付け資産が破綻債権になった時には、政府が代わって支払うという、買い手にとって極めて有利な条件を付けた。結局、政府は合計3兆円の負担をした。しかし、今回の国有足銀の買い手に対しては、こんな有利な条件を付けられないだろう。政府の国有企業売却も、ダブルスタンダードになりそうだ。

本来、ダブルスタンダードは許されないことだが、我々の周りには、重要なことになればなるほど、ダブルスタンダードが多いようだ。例えば、自衛隊はダブルスタンダードそのものだ。自衛隊は憲法上海外で戦闘できないが、そのための武器を持ち、訓練に励んでいる。イラクでは戦闘地域であっても、自衛隊がそこに行けば、法律的に非戦闘地域になる。そうでなければ、憲法違反になるからだ。いつの間にか、我々は、大局を見据えた根本的な改革を避け、一時凌ぎのダブルスタンダードに慣れてしまったようだ。

ページのトップへ