静岡新聞論壇

2003年 

若者の行動が経済に活力

様変わり野球強豪校 

今年の高校野球・甲子園大会では、東北地方や山陰地方等、冷寒地の私立高校が大活躍した。選手の大部分は大阪、神奈川等強豪ティームが犇めいている県から進学した。

寒冷地の高校は、若年者人口が減り、存立が危なくなっている。強い野球部というはっきりした目標をつくって、懸命に努力すれば、野球の有名校になれる。地価が安いので、学校の近くに、大きなグランド、雨天練習場、合宿所を建設すれば、長時間の練習が可能だ。能力ある監督を採用し、才能ある中学生をスカウトし、冬季には、暖かい地方へ練習試合に出掛ける。野球部員はポジション争いをしつつ、甲子園を目指して猛練習するから上達が早い。多様な球種を操れる投手やホームランバッターが育ち、将来の松井やイチローが生まれる可能性がある。一旦、野球の名門校になれば人気が高まり、野球が上手な生徒も普通の生徒も殺到するから、野球部にかなりの資金を投入しても、学校経営が成り立つ。

野球だけではなく、サッカー、ラクビー、駅伝、バスケットを始め、特別なスポーツが強い高校が沢山ある。静岡県では、強い少年サッカークラブがあり、高校サッカーの強豪ティームがひしめきあっている。生徒はお互いに刺激し合いながら上達した。旧清水市の高校出身のJ1選手は累計で120名を超えた。清水の高校はプロサッカー選手やサッカーの指導者を育てるという教育に成功したといえる。清水の高校でサッカーを学びたいという中学生は全国にいる。

現在のところ、全国的に名が通っている高校は、スポーツ校と、一流大学への進学校ぐらいしかない。本来なら、文学演劇、都市計画、絵画彫刻、コンピューター・ソフト、起業研究、外国語等、いろいろなクラブが大活躍し、有名になっている高校が存在していいはずだ。そういう学校に集まった特殊な才能に恵まれた生徒は、お互いに刺激を受けて伸びるだろう。高校生の年頃では、みずみずしい頭脳を生かせば、学会や論壇で評価される成果を生むかもしれない。

今までは、文部省が全国一律の教育を実施し、多くの高校が大学入試やいろいろな資格の受験向きの教育をしたので、才能ある生徒はその才能を磨く機会を失っていた。振り返ってみると、受験戦争に勝ち抜いて、一流大学を卒業して、中央官庁や大銀行に勤めた人達が日本経済を誤った方向に導いたと言える。

特色ある教育重要 

明らかに教育制度に欠陥があった。今後自治体は、特色ある教育をする高校や公立大学を作り、特色ある私立の高校・大学を誘致し、地域の住民やその子弟に教育の選択の幅を広げたい。大学教授や社会人による高校生への講義、長期間・インターンシップ、寮の充実など特色ある教育を行えば、その魅力に惹かれて、内外各地から生徒が集まるだろう。

今年の甲子園では、地方の伝統ある進学校や都立の高校が出場した。静岡高校、岩国高校、今治西高校などがそれだ。我々の年輩の者には、岩国高校は有名なマルクス経済学者河上肇の出身校として知られている。静岡高校は多くの一流学者が輩出している。ことによると、進学校の生徒達は受験中心の教育に疑問を抱き、クラブ活動に熱心になり、その1つが野球部だったかもしれない。もし、そうであれば素晴らしいことだ。

とにかく、進学校ー一流大学ー役人・一流企業という人生ルートの空しさが広く認識されたらしい。生徒はクラブ活動や特殊な学校で才能を伸ばし、いきなりアジアの大学に留学したり、或いは起業を目指したりするといい。若者達が、日本 経済に活力を与えつつ、素晴らしい人生を送るためには、そうしたダイナミックな行動が重要だ。暖かい県の少年が寒風が吹き荒れる地域に、野球留学するのはそうした行動の1つと言える。

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