静岡新聞論壇

2003年 

深刻な少子・高齢化問題

年金・医療制度の不平等

日本経済における最も深刻な問題は少子化・高齢化だ。老人の数は、今後25年間で2000万人増え、働ける人(16才から64才まで)の数は1300万人も減る。膨大な数の老人は、今後ずっと、年金や医療費を数が少なくなった若い人に依存しなければならない。

現行の年金・医療制度がそのまま推移すると、現在60才代の人は一生涯を通じて、自分が負担した額より、6500万円も多くの年金・医療費を受け取る。現在10才台の人達は、年寄りの生活を支えるために、一生を通じて、5200万円を負担しなければならない(以上厚生労働省の計算による)。年齢が50才違うと、1億円以上の不平等が発生することになる。

グラフグラフ2

判りやすい例をあげてみよう。80才以上の人は、現在、平均して、年間85万円の医療費がかかるが、自分で負担するのは僅か10万円である。差額の75万円は若い人が負担している。年寄りの数が増え、若者の数が減るにつれて、若者にかかる負担は一層重くなる。若者の多くが、国民年金や健康保険の保険料を支払わなくなるのは当然だ。では、どのような対策があるか。

まず、出生率を高めることだ。ところが、子供を産み育てるには、膨大な負担がかかる。働いている女性が、出産・育児に専念すると、休職期間の賃金を失い、再就職後には賃金が低くなる。合計損失は8500万円に達する。(経済財政白書の計算による)。その負担を軽減するためには、男性にも育児休暇を義務づけ、さらに役所や企業では、ポストの半分近くを女性に配分するという平等政策が必要だ。

第2に老人が、生活費の一部でも稼げるように、75才まで働くシステムをつくり、同時に年金を減らすべきだ。老人は、体力に応じて、例えば、一日置きに働き、賃金を低くする。現役の時と、同じ仕事にすれば、働けるだろう。ボランティアの社会奉仕でもいい。それによって、国の支出が幾らか減るからだ。

第3に、病院・診療所が過剰治療に走らないように、医者以外の第3者による監視委員会を設けるべきだ。

多額の医療費がかかるのは終末医療であるから、尊厳死の思想を導入すべきだろう。また、医療産業の規制を緩和し、外国人医師や看護婦を増やし、外国人が診療・治療に来日するほどに、その競争力を強化すべきだろう。そうすれば医療コストが下がる。

若者の負担軽減への議論を

第4に、若い人達が新技術を継続的に開発し、生産性を飛躍的に向上させることが必要だ。そうれば経済が成長し、少子化・高齢化の負担に耐えられる。それには、、優れた教育・研究システムの創造や、研究開発のために長時間労働を厭わないという風土造りが要求される。

以上のような対策が実現できないならば、最後には外国人労働者の受け入れだ。生産労働人口を減らさないためには、毎年65万人の外人労働者の移住が必要になる(現在は年間5万人の移住)。もし、知能が高い外国人が大勢日本に移住してくれれば、生産性が上昇し、日本は豊かな国になる。こうした傾向が続けば、50年後には、3000万人以上の外国人が生活することになり、日本はアメリカのような多民族国家に変わるだろう。

少子化・高齢化が進むなかで、私たちが豊かな生活を送るためには、以上のような難しい政策を覚悟しなければならない。男女完全平等、老人の就労、尊厳死の承認、天才教育、外国人の大量受け入れ等は、日本文化の根元に触れる問題だ。残念ながら、今度の選挙では、こうした基本的な問題ではなく、道路公団や郵政の民営化、地方分権、年金受給額の減額等、当面の問題に議論が集中した。深刻な問題を避けるのが政党の癖である。

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