静岡新聞論壇

2003年 

りそな銀行への公的資金投入

機能したセイフティネット 

大銀行が破綻し、国有化されると、国家は莫大な損害を受ける。6年前に、長銀は、市場の攻撃を受けて、株価が50円を割り、破綻した。それとともに、金融不安が一挙に広がった。長銀は債務超過ではなかったが(破綻後に判明)、政府が「債務超過だ」判断して、国有化された。

破綻とともに、長銀の株式を持っていた取引先企業は、それが無価値になったから大損害を受けたので、優良企業は長銀との取引を止めた。また長銀系のノンバンクは取引先を失ったので、経営が一段と悪化して、長銀の不良債権が一挙に増大した。さらに長銀債を買う客が激減した。国営長銀はあっという間にボロ銀行に変わり、従業員は勤労意欲が失い、優秀な人材は去っていった。

ボロ銀行をそのまま買収しようという金融機関は現れなかった。政府は、仕方なく、約3兆円の実質的な贈与金を添えて、外資に買収してもらった。国営長銀は外資系の新生銀行に変わり、贈与金のお陰で、資産内容が格段によくなった。

金融庁はこうした失敗を繰り返したくない。りそな銀行は、金融庁のマニュアルにしたがって昨年度の決算を行うと資本不足になる。金融庁は金融不安を防止するために、りそなに対して、公的資金の投入を決めた。その額は2兆円を超えそうだ(それは投資であり、贈与ではない)。その頃、りそなの株価は50円を割ったが、金融市場は平穏だった。

それは、ペイオフの解除は2年先に延期されており、また日銀は、大銀行に対して、救済融資を続ける意志を表明していたので、どの銀行の預金者も不安を感じなかったからだ。長銀が破綻した時と違って、セイフティーネットが見事に機能した。

りそなに対して、資本不足を指摘したのは監査法人だった。政府は、りそなの最大株主になったが、今後経営を厳しく監視するに止まり、経営には直接タッチしないだろう。役人は銀行を経営する能力がないことをよく知っているから、表面に出たがらない。長銀破綻の時には、政府が表に出て国有化したが、今回では、間接的な関与に止め、りそなの再建が長期間かかっても、責任をとらずにすむ仕組みにした。それほど再建が難しい。

どの銀行にとっても、最大問題は低金利融資が多く、利益が少ないことだ。多くの中小企業は高金利でも借りてくれるが、中小企業融資は膨大な不良資産を生み出す可能性がある。それを避けるには、優良な大企業・中堅企業に対する融資を増やそうとすると、そういう企業には、多くの銀行が融資しようとしているから、競争が激しく、金利は採算ぎりぎりまで下がってしまう。短期国債を買えば安全であるが、金利がまるで低い。

中小企業への融資増必要 

銀行が収益性を高めるためには、リスクが多い中小企業融資を増やすこと必要だ。それには、まず、銀行が中小企業の成長性を判断できる能力を磨くことだ。融資係や部店長が取引先企業に訪問を繰り返し、業界やその企業の内容を熟知することが必要だ。

また、財務内容や利益率などの優劣に応じて、中小企業をグループ分けして、リスクに対応した金利を決めることも重要だ。同じグループに沢山の企業が存在すれば、融資リスクはある確率に収れんするから、そのリスクを貸付け金利にオンすればよい。

銀行がリスクを覚悟して中小企業に融資すれば、中小企業は成長し、日本経済は活性化する。ところが、りそなが、政府の管理下におかれた時には、リスクのある融資を減らさざるを得ないだろう。同時に、賃金カット・人員整理・店舗の削減など縮小均衡の経営を目指すに違いない。つまり、公的資金投入は、日本経済の活性化にすぐには役立たず、金融不安の誘発を抑える効果しかない。中小企業融資を増やすには、別の政策が必要だ。

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