静岡新聞論壇

2003年 

アメリカの理論は正しいか

アメリカは、世界で最も学問が発達した国であって、世界各国から優れた頭脳がアメリカの大学や研究所に集まってくる。オーソドックスな政治学者達は、「アメリカ的民主主義は自由という普遍的な正義を実現し、かつ自由な民意を基盤としているから進んで戦争しない優れた統治システム」という理論的結論に達したらしい。日本でもこの結論を信ずる人が多かった。

しかし、実際のアメリカは2次大戦後も朝鮮、ベトナム、ソマリア、湾岸、コソボ、アフガンと「民主主義を守るため」の戦争を続け、現在 大量破壊兵器を壊滅し、かつアメリカ型民主制度を移植するためにイラク戦争を始めた。とにかく、アメリカは、アメリカのシステムが正しいという理論的結論を出して、それを他国に押しつけるのが好きだ。金融システムもそうだった。

アメリカ経済は70年代から80年代にかけて、膨大な貿易赤字と財政赤字、インフレ、高金利に苦しんだ。当時、銀行は厳しい規制の下に置かれていたので、資金は高金利の短期証券市場に流れ、銀行経営は危機に直面していた。アメリカ政府は銀行を救うために、銀行に対する規制を撤廃して、金融システムを自由化した。その結果、銀行の主たる仕事は、消費者ローン、住宅ローン、企業合併の仲介、貸付債権の証券化などの分野に移り、銀行が栄えている。

80年代中頃には、アメリカ政府は日本の経済や銀行が強力だったのは、企業が規制に守られて輸出を伸ばし、また銀行が規制によって保護されているためだと判断し、日本政府に対して、金融の大緩和政策による内需の拡大と、金融の自由化を大規模に一挙に進めることを強く要求した。そうすれば輸出が減少し、また日本の資金が高金利のアメリカに流出するから、アメリカの株安が止まり、世界経済は安定化するはずだ。アメリカの金融学者は、自由化された金融システムこそ、グローバル化した世界経済にふさわしいシステムだと主張した。

ところが、日本の銀行は、金融緩和と大規模な金融自由化政策の結果、証券市場との競争に負け、融資先企業を失った。銀行は、生き残りを賭けて、過剰資金を不動産投機などの融資に投入した結果、バブル経済が発生した。その後、銀行は膨大な不良資産に苦しむ結果になった。かって世界最強だった日本の銀行は、見る影もなく衰退した。念を押すように、アメリカの会計原則が日本企業や銀行に適応されたので、今や日本の銀行の財務内容は破綻状態になった。金融自由化はアメリカでは成功したが、日本では、金融の大緩和政策と同時に行ったので、大失敗だった。

東アジア諸国は、90年代からアメリカの経済理論にしたがって、金融を自由化・国際化した。これらの国はドル資金を借り入れて順調に成長したが、景気が過熱気味になった97年頃、突然ドル資金が引き揚げられたので、金融危機が発生した。その結果、為替レートが著しく低下した。ヘッジファンドはチャンス到来とばかり、現地の企業や銀行を格安で買収したので、アメリカ経済の影響力が増した。中国とマレーシアは金融の国際化・自由化を実施しなかったので、金融危機が発生しなかった。

アメリカ留学帰りの優れた学者達は「自由化政策は理論的に正しい」と考え、政府はアメリカ的な金融システムの定着に努力している。日本では、敗戦後、アメリカのシステムや理論はすべて正しいと考える癖がついてしまった。NHKの大リーグ報道もアメリカコンプレックスの固まりであって、経営や選手の登用などについて批判しようと言う態度が全くない。 イラク戦争、金融の自由化、プロ野球とどれを見てもアメリカに対する従属的姿勢は同じだ。

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