静岡新聞論壇

2003年 

自治体合併とハード

日本人の変な完全主義 

日本人は、変なところで完全主義であるから、無駄が多い。幾つかの例をあげてみよう。高速道路の料金所のETC専用レーンはがらあきだ。その理由にはETCの車載器が取り付け料を含むと4万円前後になるが、道路料金の割引率が低いからだ。

アメリカの東部の州の高速道路では、車載器は10センチ四方ぐらいでタダだ。マジックテープでフロントガラスに張りつけ、毎年約300円の口座管理料を払うだけだ。

日本の車載器が高価なのは全国の高速道路でも適用できるようにし、また料金計算の誤作動を防ぐため高い精度を要求し、さらに運転の秘密を守れるようにしたからだ。つまり、付随的な機能を完全にしたから、料金所の混雑解消という目的は果たせなかった。

最近、衛星を利用したデジタル放映が本格化したので、プラズマ・テレビとホームシアターの売れ行きが好調だ。しかしBSと地上波では、いずれも、同じ紀行もの・動物もの・音楽イベントなどを数ヶ月おきに何回も繰り返し放映している。同じ野球の試合がNHKのBSと民放が同時に放映されることもある。

確かに、衛星、デジタル、プラズマ等、テレビの通信、放映、受像の技術は目覚ましく進歩したが、肝心のコンテンツが貧弱で、かつ著しく不足している。テレビでもハードの能力に較べて、ソフトが貧弱であるから面白くない。

日本人はハードにだけ完全主義らしい。市町村合併でもそういう傾向がみられる。今まで、合併して新しい市になると、まず立派な新市庁舎が計画され、政令都市になった場合には、さらに堂々たる区役所がつくられ、記念ホールや図書館が併設される例が多い。福祉、環境、教育、産業育成等に関するビジョンづくりより、ハードの建物が優先されるのである。同じハードなら、例えば、本県で言えば、東海地震の対策として、倒壊家屋が大災害を誘発しないように、一般家庭にも補強工事費用を補助するといった災害対策の方が重要だろう。

ハコよりソフト重視を 

昔の人は偉かった。日露戦争の勝利や昭和天皇即位といった記念行事として、東京を始め、多くの都市や町で桜の木を沢山植えた。足助町では、かって不況対策事業として、数千本の楓を植え、それが現在の香嵐渓になった。私たちはそのお陰で、素晴らしい春や秋を迎えることができる。後世の人にとっては、記念のハコモノを残されるよりも、遙かに幸せだった。

東京の丸の内や大手町に豪華な本社や本店を構えている企業や銀行はいずれも、過剰投資や膨大な不良資産に苦しみ、死に体である。本県の製造業には、経営力や技術水準からみて、国際水準を抜く超一流の企業が多い。金融業でも日本一の銀行がある。ところがそれらの本社や本店は何と貧弱なことか。ハコモノよりも、ソフトを大切にしたからこそ、強力な企業になれた。

一般的に言って、経済力が弱い自治体に限って建物が立派である。そういう自治体はそれだけの企画力しかないのだろう。ETC車載器を簡単にし、テレビはソフトを向上させるのと同じように、自治体は借りビルで我慢してでも、壮大な特区の研究にマンパワーと資金を投入して、是非とも実現する位の心意気を持ちたいものだ。

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