静岡新聞論壇

2003年 

主要国に広がる世界的デフレ

米では個人消費上昇止まる

デフレ・株安・銀行危機が主要国に広がっている。 

アメリカ経済を見ると、4年前までは、株価が上昇を続け、IT関連企業が続々上場され、またIT企業の買収が活発だった。投資家は莫大な利益を上げた。 このITバブル経済が崩壊し始めると、大型な粉飾決算が行われ、会計事務所が協力した。エンロン、ワールド・コムはその典型だ。またアナリストは、自分が勤めている証券会社の株式投資や増資引き受け等の仕事に有利になるようなレポートを書き、投資家を騙した。

ITバブル崩壊とともに、こうした不正が次々に明らかになり、投資家は株式投資から離れ、株価が暴落した。多くのIT企業が上場しているナスダック市場では、平均株価が3分の1に下がり、企業は証券市場で資金を調達しなくなった。

それにも拘わらず、アメリカ経済は成長を続けた。それは個人消費と住宅投資が活発だったからだ。移民が増え、住宅価格が上昇し、住宅の担保価格が増えた。アメリカ人の多くはローンに依存した生活を送っており、担保価格の上昇によってローンの限度額が増加すると、すぐにローンと消費を増やした。また住宅価格が上昇し続けたので、投機的な住宅投資が活発だった。

こうした循環が何時までも続くわけがない。最近になると、遂に住宅が過剰になり、住宅価格と個人消費の上昇が止まった。これから住宅価格も個人消費も減少しそうだ。すでにローンを返済できない人が増え、消費者ローン会社や銀行では不良資産が増えている。アメリカ軍は短期間でイラク戦争に勝ったが、株価は目立った低迷したままだ。

ドイツ経済をみると、ITバブル崩壊とともに、IT関連産業では、設備が一挙に過剰になり、倒産企業が増えた。株価は4年前のピークに較べると3分の1以下の水準だ。ベルリンなどの大都市では、ECの中核都市になるという展望を広がり大型ビルの建設がすすんだが、完成すると空室が目立ち、ビル価格が下がっている。ベルリンでは年間で15%も下がった。ドイツは日本のように、銀行が金融機関の中心であるが、銀行の不良資産が膨張し、4大銀行は不良資産の償却と株式の評価損によって、そろって赤字に転落した。2次大戦後始めての出来事だ。

産業の空洞化が一因 

どの国でも、生命保険会社や年金ファンドのように、長期的観点から資金を運用している機関が、株価の暴落によって大きな評価損が発生した。すべての金融機関に時価会計を採用させるのは誤りだという意見が工業国で広がり、アメリカ的な証券市場の立場に立った会計基準が批判されている。

日本、ドイツ、アメリカ等の工業国がデフレ経済に沈んだ背景には、生産拠点が、中国、東欧、メキシコ等に移転して、産業が空洞化したという事情がある。空洞化したのは、家電、パソコン、IT部品、自動車等の在来型産業だけではない。ITソフトの開発・生産も、中国、インド、ロシア等、沢山の高学歴者がおり、かつ賃金水準が低い国に移転している。

現在の世界的なデフレは、100年に一回ぐらい発生する生産拠点の大移動という歴史的な事件に基づいている。金融システムをアメリカ流に変えれば、解決されるという生やさしい問題ではない。

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