静岡新聞論壇

2003年 

役所の衰退

企業見る目なくした銀行

2年前から、持ち合い株式に時価会計が適用されたので、銀行の経営危機と株価の低落が相互に作用し合って歯止めがかからなくなった。大手銀行の持ち合い株式は、最近半年間で4兆円も目減りし、銀行の心臓部と言える中核的自己資本が大打撃を受けた。この間に、大手銀行の株価が半値近くに下がった。

大手銀行株の暴落は株価水準全体を引き下げ、また大手銀行と株式を持ち合っている企業の財務内容は著しく悪化した。銀行は自己資本比率の低下を防ぐために融資を減らした。ので、弱い企業の力は一層弱くなり、市の結果、銀行の不良資産が増えて、その株価はさらに下がるという悪循環が続いている。

大手銀行は、今後、経営不振の企業から融資を引き上げ、保有株式を売却して、資産内容の悪化を防ぐだろう。また大幅な人員削減、店舗の閉鎖、賃金カット等のリストラを続けるはずだ。こうした経営活動の縮小という環境では、行員が人的ネットを拡大して、新しい情報や優れた人材に接し、成長企業や再建可能な企業を見抜く眼力とか、知恵とかを磨く機会をつくれない。

銀行の利益の源泉は、現在苦境にあるが、将来は発展しそうな企業を選別して融資することだ。そういう企業は高金利で借り入れ、確実に返済してくれるからだ。しかし、現在の銀行には、企業を選別する能力が欠けているので、売却できる不良資産はすべて売却しようとしている。外資系が強い再生ファンド、産業再生機構、整理回収機構が主要な売却先だ。

中央官庁は、銀行と同じように、縮小を迫られている。日本経済が硬直化した原因は官僚が様々な規制を日本経済全体に張り巡らしたためだ。彼等のなかには、はその権限を振りかざして私服を肥やした人がいた。

官僚批判の発端は、10年近く前、大蔵省の幹部や職員がバブル経営者の自家用ジェットに乗って香港へ豪華旅行をしたり、また「ノーパンしゃぶしゃぶ」を楽しんだ等、癒着と腐敗がつぎつぎに明らかにされたことだ。官僚は政策を誤った上に、道義を欠いていると世間から激しくパッシングされた。官僚は危機意識を強め、行政改革に従うととも、細かい規則を作って恭順の意を示した。

生きた経済知る努力せず 

中央の官僚は、業界団体との食事会に招かれると、食事の時間になると帰るか、食事が終わった頃にやって来るかどちらかだ。それは1000円以上の食事をご馳走になってはいけないという規則があるからだ。官僚は職務的に関係ある企業に勤めている親友とは一緒に食事もできない。生きた情報や新しい考え方は企業人との会話のなから得られるものだ。アメリカのグリーン・スパン連銀議長が的確な金融政策を実施できたのは、絶えず企業家に会い電話をかけ、新しい経済情勢を聞き出しているからだ。企業家や実務家との接触がない人は、実際の経済が判らない。

かっては、生きた経済情報が交流する軸にいたのが銀行員と官僚だった。ところが、今や両者ともその能力を失った。銀行は取引先企業の再建を外資や政府機関に任せ、官僚は経済政策を生きた経済を知らない経済学者に任せている。中央官庁に代わって、次代の日本を担うべき地方公務員も、中央官僚を見習って専ら1000円ルールを守り、生きた経済から遠ざかっている。生きた情報を吸収しようと絶え間なく努力するよりも、規則を理由として早く帰って家族と団欒した方が楽しい。精神的腐敗は残っている。

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