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日本企業の変化と手帳術ブーム

最近、手帳術がちょっとしたブームになっている。その背景には、ビジネスマンの働き方の変化があるようだ。

ここ数年、手帳術ブームが続いているそうだ。『一冊の手帳で夢は必ずかなう』『新・「超」整理手帳2006 黒』『3日坊主」でも使いこなせる手帳術 』『夢に日付を! ~夢実現の手帳術~』といった本が、書店には、ずらりと並んでいる。オンライン書店のアマゾンでは、現在、ビジネス書の人気ランキング50位以内に、2冊の手帳関係の本が入っている。

著者は、渡邉美樹、野口悠紀雄、佐々木かをり、熊谷正寿をはじめとした、有名な経営者やコンサルタントや教授といった人たちだ。手帳術についての書籍が次々にベストセラーになるので、手帳特集を組む雑誌も増えてきた。

手帳術についての書籍は、主として次のようなポイントについて解説している。まず、第一は、人生の夢や目標を、日々の行動にまで落としこみ、達成に向けての具体的な行動に移すための手法だ。第二は、要領よくスケジュールをこなし、さらに将来に向けての勉強時間やネットワークを広げるための時間などを捻出できる方法についてだ。第三は、アイデアの捻出や情報整理をするための手帳活用方法だ。

そして第4番目が、具体的にどんな手帳をどのように使っているかという手帳紹介だ。予定が変更になったり、気付いたことをメモにとったりした時、いちいち転記する時間を省くために、移動自由なポストイットをベタベタ貼り付けている人、2週間分のスケジュールを一目で見渡せるようにしている人、分刻みでやることを細かく書いている人など、そのやり方は非常に多様だ。雑誌などでは、職種別にマッチする手帳術を紹介していることもある。

売れっ子の手帳術本の著者が考案したオリジナル手帳もいくつか売り出された。中には、手帳の使い方のDVDまでついた大セットの手帳もある。

手帳術ブームの盛り上がりにともなって、百貨店や書店や文具店などの手帳売り場は、一挙に拡大した。伊東屋では、驚くことに3500種類もの手帳を並べているそうだ。

もっとも、手帳ブームの背景には、企業が経費削減のためにで販促品として手帳をつくるのをやめたという理由もあるそうだ。これまで、販促用の手帳を使っていた人が、一斉に自分で買い始めれば、当然、「新型手帳ブーム」が盛り上がりそうだ。手帳のメーカーにとっては、対象が法人から個人にうつるとともに、開発競争が激しくなった。

ところで、手帳術に沿って手帳を使うためには、まず、人生の目標を考えなければならない。ところが、人生の目標や、将来、どうなりたいのかがよく分からないという人が、意外に多いようだ。手帳術とあわせて、人生目標の立て方や夢の持ち方などを紹介している書籍や雑誌も多い。

考えてみれば、それは当然のことかもしれない。つい最近まで、一度、就職すれば、その会社に定年までいるのは当たり前だった。定年までの能力開発の道筋から、定年後の人生まで会社が考えてくれた。私たちは、会社の異動命令にそってローテーションを繰り返していれば、自然に知識も経験も深まっていた。ところが、国際化と情報化の進展によって、このようなシステムは機能しなくなった。

今では、大企業ですら潰れることがあり、リストラが珍しいことではない。また、一時的に能率が低下するローテーションもめっきり減った。

その代わり、自分から希望部署にエントリーするフリーエージェント制度や社内ベンチャー制度や、各部門やプロジェクトが人事部を通さずに直接新メンバーを社内から募る社内公募制度といった自由度の高い精度は増加している。また、自分で年金を運用する会社も増加の一途をたどり、退職金前払い制度も増えている。言い換えれば、自分で「ジョブ・ローテーション」を考えなければならないわけだ。

さらに、寿命が世界有数の長さになってきたので、最近は、老後のことも考えなければならない。キャリアデザインの研修を始める企業も増えてきた。いきなり、数十年タームで物事を考えろと言われば、混乱するのは当たり前だ。

また、フレックスタイムや、時間ではなく実際に働いた成果によって評価する裁量労働制度を導入する企業が増えてきた。自己管理する勤務時間のウェイトが高まったわけだ。もちろん、取引先も同様に、時間が自由になっているので、アポイントのすり合わせが難しくなってきた。多くの企業がリテール部門に力をいれ始めたので、休日もバラバラになりつつある。調整を間違えれば、休日に出勤するはめになるわけだ。

人員削減とIT化が進んでいるので、出張申請や交通費の清算をはじめ総務的な仕事は、それぞれの社員が、自分でやらなければない。忙しくなった合間をぬって、老後の資産運用をしたり、自己啓発などに努める必要がある。スケジュール管理は、格段に難しくなったわけだ。

国際化や情報化のスピードが速くなった。たとえば、映画などでは、かつては、まず、アメリカで上映され、しばらくしてから、ヨーロッパや日本で上映するといった具合だったが、今では、世界同時上映が珍しくなくなった。音楽やファッション製品をはじめとした消費財も同様の傾向にある。世界で一挙に流行り、一挙に廃れるので商品のライフサイクルは短くなり、多くの産業で開発期間が短縮された。それにあわせて、時代の変化や情報収集に、これまで以上に敏感にならざるをえなくなったわけだ。

こうしてみると、現在の手帳術ブームは、企業のあり方やビジネスマンの働き方の変化に対する戸惑いの反映だといえよう。まだまだ、手帳ブームは続きそうだ。

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