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大学に進出する専門学校

専門学校に通う大学生は増える一方だ。最近では、大学内に専門学校の講座が設置される例も増えてきた。
長年保護されてきた大学は、じわじわと競争力を失いつつあるようだ。

最近、専門学校と提携する大学が増えている。大学の教室に、専門学校の講師がやってきて講義をするのである。経済学部内に専門学校の税理士講座、法学部内に司法試験コースといった具合だ。もちろん大学は、学者を養成する場であるから、専門学校の講義を単位に加えるわけにはいかない。課外授業という形で授業を行っているそうだ。

ところで、長い間、専門学校は、大学に行きたくても入れない、いわゆる「落ちこぼれ」を対象にしてきた。専門学校の大きな役割は、そのような生徒に自信を与え、技術を教え、1人前の人間として社会に送り出すことだった。

たとえば、簿記・会計教育で有名な大原グループが経営する学校法人大原学園(専門学校)では、新入生に自信をつけさせるために、まず、入学2ヶ月後に実施される簿記の2級検定に合格させるという目標を持たせるそうだ。教師は、レクリエーション・コーディネーターの資格を持っているので、生徒に勉強させるのがうまい。生徒に対しては、「もし、その日の授業で分からないことがあったら聞きにこい。分かるまで、先生は、何時まででも残ってあげるぞ」と恩着せがましくいうそうだ。それは、みんなを遊びに参加させるレクリエーションのテクニックの一つだという。もし、「おまえは出来ないから残れ」と強制すれば、生徒のやる気は削がれるそうだ。

簿記の2級に合格すれば、生徒は、やればできるという意識を持つようになる。同時に、中学・高校時代の自分を反省するそうだ。劣等感が無くなれば、驚くほど勉強するようになる。入学から8ヶ月間、ひたすら、簿記・会計を厳しく教えていくという。

その次の8ヶ月は、情報処理や敬語や礼儀など社会人として必要な技能や常識を教えていく。漢字の弱い子に漢字検定の受験を勧めたりすることもあるそうだ。社会に出るための常識を覚えたら、今度は、社会へ出て行くための準備期間に入る。この間、外部講師や学園長などの話を聞かせて、「生きる」とか「働く」といった意味をじっくり考えさせるわけだ。

劣等感からの「引き剥がし期間」が8ヶ月、社会人になるための「育成期間」が8ヶ月、社会で何をやりたいかを考える「加入期間」が8ヶ月の合計2年間で、その辺の大学を出た生徒には負けない自信と能力を身に付けさせるのだという。

いうまでもなく、専門学校は、免税の特例はあるが、大学と違って補助金はない。生徒を一人でも多く集めなければ、たちまち潰れてしまうわけだ。だから、国家試験や民間試験などの高確率という目に分かる指標を高め、また、生徒に親切にして、彼らの後輩への評判を高め、職場でも評判を高めていかなければならないわけだ。さらに、アンテナを張り巡らせ、これから人気が出そうな仕事や資格の学科も新設しなければならない。職場を確保するために、飛び込み営業をかけている専門学校も少なくない。昭和52年に専門学校ができて以来、このような競争を20年以上も続けてきたわけだ。

さらに、専門学校の多くは、株式会社を設立して、社会人に対しても専門教育を施している。通信教育や駅前ビルでの授業といった利便性を考えた授業は、規制がない株式会社の方がやりやすいからだ。このように、専門学校の多くは、生徒の利便性にあわせて、様々な形態の授業を行ってきた。

一方、グローバル化や市場経済化の進展とともに、英語や会計や法律をはじめ、職能教育の必要性が高まってきた。それにともなって、大学生まで専門学校に通うようになってきた。

専門学校が生徒から選ばれる立場にあったのに対して、大学は、長い間、生徒を選ぶ立場にあった。ところが、この数年で事情はすっかり変わった。子供の数が減ったのに、大学の入学定員が増えているので、大学が専門学校と同様に、選ばれる立場に変わり始めた。さらに、最初から専門学校を選ぶ生徒、海外に留学してしまう生徒も出てきた。アメリカのコミュニティカレッジなどでは、学園長が、自ら、日本人生徒勧誘のために日本に滞在しているところもある。大学は、初めて、激しい競争にさらされ始めたわけだ。2009年には、大学に入りたい人は全員入学できる大学全入時代がやってくる。

大学に入るのが簡単になれば、当然、大学生のレベルは下がっていく。最近は、大学の授業についていかれない生徒が増えているという。大学の授業は、高校と違って、教科書に沿って授業が進むことはほとんどないし、教科書を使わない先生も多い。学生は、講義の要点を自分でまとめてノートに書くわけだ。授業についていかれないという生徒は、この作業ができないのである。

いくつかの大学では、その対策として入学試験項目の中に、模擬授業を入れるようになった。講義を聞きながら、ノートをとる能力があるかどうかを試そうというわけだ。生徒を選ぶ余裕がある大学なら、それも可能だが、人気のない大学は、そうはいかない。

民間企業の塾は、ここに目をつけた。早速、「春休み強化レッスン」と銘打って大学入学が決まった新1年生に対して、講義の聴き方の指導を始めた。もともと、塾は、学校の落ちこぼれを相手にしたり、中学や高校よりも優れた授業をすることで成長してきた。今度は、大学生の落ちこぼれを助けるビジネスも広がるかもしれない。

激しい競争にさらされた専門学校や民間企業は、大学生のレベル低下や大学全入時代に新しいビジネスチャンスを見出し、ますます成長しそうだ。さらに、今年から、教育特区で、株式会社大学や株式会社大学院も設立された。これらの学校は、税金を支払うから、これまにないユニークな教育ができるに違いない。

それに対して、大学は、専門学校と提携し、その授業内容を一つの売り物にするようになった。

農業や金融機関をはじめ、補助金や保護によって競争力を失った産業は枚挙に暇がない。高等教育も、その例に漏れないようだ。

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