簡保年金資金掲載文（小泉三保子との共同執筆）

ファスティングブームによって見直された伝統的な断食

ジュースやハーブやサプリメントなどを使ったしゃれた雰囲気のファスティング（西洋断食）ブームが盛り上がるとともに、日本の伝統的な断食も見直されてきた。

最近、若者を中心にファスティングが流行しているという。それは断食のことだ。一定期間断食すれば、胃腸が休まるし、体重も減少する。それによって、糖尿病予防、自律神経の活性化を始め、様々な効果が期待できるそうだ。「臭覚や味覚が敏感になり、和食が好きになった」「肌がきれいになった」といった効果をあげる人もいる。ダイエット、美容、健康を始め、ファスティングする人の目的は多様だ。現在は、ホテル、治療院、健康食品店、クリニックをはじめ、多様な施設がファスティングプログラムを手がけたり、ファスティング用グッズを販売するようになった。

たとえば、蓼科のリゾートホテル「ホテルグランビュー蓼科」は、昨年ファスティング専門ホテルに変わることによって、宿泊客を安定的に確保できるようになったという。ホテルに施設は、リラックスできるように豪華に改装し、スタッフには看護婦、栄養士、整体師などが常駐している。ファスティングをする前には、健康チェックがありファスティング中には、必要な栄養素を補給するためにジュースは飲むそうだ。オプションで整体やアロマテラピーなどリラックス用のプログラムもある。最後に栄養指導を受けて終了だ。宿泊費は、１泊２万円で、２泊から２１泊までのコースがある。もっとも人気があるのは５泊コースだという。言い換えれば、絶食するために１０万円以上も支払っているわけだ。

ファスティングがブームになったきっかけの一つは、「グレートアントニオ」というアントニオ猪木関連グッズを中心に品揃えしている格闘技ショップが、自宅で気軽に出来る「ファスティング・ダイエット」という飲み物を売り出したことだ。「ファスティング・ダイエット」は３本のドリンク剤が１セットになっている。この 「ファスティング・ダイエット」には半日、１日、３日の３つのファスティングプログラムがある。健康状態や年齢などに合わせて、好きなプログラムが選べるわけだ。ドリンクセットには説明書がついており、たとえば３日間のファスティングなら、１日１本宛ドリンクを飲み、１日ファスティングなら１日で３本飲むといった利用方法や、その間、たばこを吸ってはいけないといった注意などについて細かく書かれている。

同店では、アントニオ猪木氏が「ファスティング・ダイエット」を愛用していたため、アントニオ猪木Ｔシャツなどと一緒に並べたという。最初は、アントニオ猪木ファンが買っていった。次には、ダイエット目的で若い女性が買いに来る様になった。価格は３本セットで１万８千円だ。ピーク時には、ネット通販分も含めれば、１日に２００本以上売れたという。

健康志向やダイエットブームの高まりとともに、「断食」に関心を持つ人は増えていた。断食道場は沢山あるが、断食は、修行僧や武道家などが心身を鍛えるためものであるので、「ヘルシーになりたい」「やせたい」などといった軽い気持ちでは参加しにくかった。また、道場で本格的に断食するには、通常１ヶ月位かかるので、普通の人はとても参加できなかった。

道場に長期間こもるのが難しいからといって、自己流でやるのは危険だ。断食中の栄養補給の仕方も難しいが、断食後の復食方法を誤れば命に関わる。そこに、自宅で短期間で気軽にできるファスティング用ドリンクが登場したのでヒットしたのだろう。また、軽い響きの「ファスティング」という言葉を使ったのも、断食のイメージを変えることに一役買ったに違いない。面白いことにファスティング・ブームが盛り上がるとともに、「断食」という言葉も気軽に使われるようになってきた。「プチ断食」とか「週末断食」といった言い方をする人もいる。

このプログラムを利用したい人は、まず、金曜日に病院を訪れて西洋医学と東洋医学の両方の医者から事前チェックを受けるそうだ。西洋医学で断食をやっていい健康状態かどうかを判断し、東洋医学で体質や体の疲れなどをチェックするわけだ。また、リフレクソロジストによる足裏の健康チェックや食欲を抑えるためにバニラのエッセンシャルオイルを使ったアロマ指導もあるという。週末断食は、１回４万２千円だが、若い女性を中心に順調に利用者は増えている。

一方、日本のファスティングの元祖といえる断食道場も、ホームページなどで、断食の気軽さをアピールするようになってきた。

「仕事で忙しい人は２泊でもファスティングができます」「きれいな宿舎があります」といった、いかにも女性客の目を引く宣伝文句を並べたり、断食中の１日のスケジュールや断食の効能などを細かく解説している。日本の断食も、断食期間中、本当に絶食するのではなく、きちんと栄養を補給しているし、運動やリラクリゼーションのメニューもある。スケジュールを見れば、豪華ホテルのプログラムと中身は大差ないことが分かる。

ところで、ファスティングにホテルやクリニックなど異業種が参入するとともに、様々なアイディアが導入され、「断食」は身近な健康法や美容法になった。

新しいサービスが登場すると、必ず伝統的なサービスが見直されるものだ。クアハウスがブームになれば、温泉も見直されるし、新和調が広がれば和風家具などに関心を持つ人が増える。最近は、若い人の間で創作和食ブームが巻き起こり、それをきっかけに、懐石料理などに興味を持つ人が増えてきた。もちろん、その背景には、伝統的な温泉や料理店が、初心者にも利用しやすい料金やサービスを用意したことがある。伝統的な断食道場も、新規参入者に刺激を受け、利用しやすくなってきた。まもなく若い女性が気楽に断食道場に通う時代がやってくるだろう。

同様に、教育、農業などの分野でも、規制が緩和され、多様な業種が参入するようになれば、新しいアイディアが次々に導入されるだろう。それは当然、既存の教育機関や医療機関や農家などにも刺激を与え、活性化につながるはずだ。