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多様化する広告と成果

今年の6月、地下鉄銀座線のトンネル内の広告がちょっとした話題になった。それは、虎ノ門駅と溜池山王駅の間を通過する時に、約15秒間、窓の外に現れるサントリーの動画のコマーシャルだ。トンネル内に等間隔でフィルムが貼られているので、パラパラ漫画と同じ原理で、テレビCMのように動いて見える。

最近は、思わぬところに広告が現れるようになった。すでにバスや電車の外装をまるまる広告にするのは当たり前になった。山手線の車内には、コマーシャル専用のテレビが設置されている。駅の階段、自動改札機の上、改札口のフロアなども広告スペースに変わった。明治時代に流行ったように商品の巨大な模型を積んだ宣伝カーも増えている。

広告が多様化した原因は、消費者のライフスタイルが多様化したためだ。すでに、ゴールデンタイムに家族揃ってテレビを見るといったライフスタイルは消滅した。企業は、膨大な費用をかけてテレビコマーシャルを打っても、消費者に対して効果的に伝わらなくなったわけだ。それどころか、ほとんどテレビを見ない消費者が増えている。雑誌や新聞も同様の傾向をたどっている。そこで、企業は、ターゲットとする消費者が集まりそうな場所に、次々と広告を打つようになったわけだ。

幸い、広告場所として大きな効果が期待できそうなスペースを沢山持っている電鉄会社やバス会社などは協力的だった。利益を増やすために、手持ちの施設や車両の有効活用に関心を持つようになったからだ。東京都がバス事業の収益を増やすために都バスの外装に広告の掲載許可を出したのは、その例だろう。

消費者も、広告スペースによって利益を得ようとするようになってきた。現在は、成果主義を導入する企業や、売り上げ不振によって所得を下げる企業が増えてきた。多くのサラリーマンが、所得の伸び悩みをサイドビジネスによって補おうと考えるようになった。その一つとして、広告スペースづくりに関心を持つ人が増えた。

最近は、自分の車に宣伝のための塗装を施して宣伝カーに仕立て上げるというニュービジネスもでてきた。車で長時間通勤するといったサラリーマンは、塗装を塗り替えるだけで、ちょっとしたサイドビジネスになる。

多様化する消費者に合わせた広告を打ちたいと考えている広告主と、サイドビジネスに精を出したい個人や企業の思惑が一致して、広告は多様化の一途をたどっているわけだ。

最近は、IT技術を使って一種のコミュニティごとに掲載する広告も登場した。その代表は「アフィリエイトプログラム」だろう。これは、ホームページに掲載する成功報酬型の広告だ。広告を掲載したら、ホームページの持ち主に対して、たとえば、「一回クリックしたら1円」「クリックしてアンケートに答えたら10円」「クリックし、買い物したら販売額の5パーセント」という具合に報酬が支払われる。

現在では、電脳卸、A8ネット、リンクシェアをはじめ、広告の掲載先を探している企業と、自分のホームページに広告を掲載して収入を得たいと考えている個人や企業を仲介する業者(アフィリエイトプロバイダー)が沢山登場している。

仲介業者のホームページには、スポーツメーカーや家電メーカーなど、自社の広告の掲載先を探している企業がずらりと並んでいる。自分のホームページに、広告を掲載したいと考えている人は、仲介業者のホームページに紹介されている広告主のリストから、好きな企業の広告を選んで、自分のホームページに張り付ける仕組みだ。ホームページに掲載する広告には、「企業のロゴ」「商品の写真」「商品の説明文」など様々なタイプがある。

スキーが趣味で、スキーに関するホームページを作っている人は、スキーメーカーやスキー専門店やスキー雑誌などの広告を掲載するだろう。読書好きの人は、読書感想文のホームページをつくり、感想文の横に読んだ書籍の写真型の広告を掲載するに違いない。

ホームページ経由で商品が売れたり、アンケートが取れた場合は、仲介業者が報奨金を計算して、ホームページの持ち主の口座に振り込んでくれる。月に数十万円も稼ぐ人もいるそうだ。

いうまでもなく、スキーに関するホームページをわざわざ探して読む人はスキー好きだし、読書感想文のホームページを見る人は読書好きだろう。ホームページを作っている人と、それを見ている人は、似たような趣味や考え方を持っている場合が多い。掲示板などを通じて、ホームページの閲覧者同士が盛んにコミュニケーションを図っていることもある。つまりホームページは一種のコミュニティであり、アフィリエイトプログラムを利用すれば、コミュニティごとに細かい広告を打てるわけだ。

ホームページの持ち主が関心を持つ広告は、当然、ホームページの閲覧者も関心を持つ可能性が高い。仮に効果が無ければ、広告主は報酬を支払う必要はない。アフィリエイトプログラムを利用して広告を出している企業は、すでに2000社以上に達しているという。

犬と猫を集めたテーマパーク「いぬたま・ねこたま」で有名な、エムケースエマツ株式会社は、ペット関連商品を販売するためにアフィリエイトプログラムを利用すると、約6万人の人が、自分のホームページに、同社の広告を掲載したという。意外なことに、まず、ホームページを作った人自身が、同社の商品を購入したそうだ。同社の商品を販売すれば、4パーセントの報奨金がもらえる。いいかえれば、同社の広告を自分のホームページに貼り付ければ4%割引で商品を購入できることになる。だから、ペット好きの運営者が次々と同社の広告を貼るようになったに違いない。ペット好きの運営者のホームページには、同様にペット好きの人が多いはずだ。

ソニーの場合は、個人や企業を対象にしたブロードバンドサービスの『bit-drive』を販売するためにアフィリエイトプログラムを利用している。ブロードバンドサービスは非常に分かりにくいので、通常なら、大量の広告と営業マンを動員しなければならない。それをアフィリエイトプログラムで補おうとしたわけだ。

広告掲載者を増やすために、ソニーは、報奨金を販売価格の50%に設定した。アフィリエイトプログラムの報奨金は、大企業なら5%前後が普通なので、破格の額だ。さらに『bit-drive』を沢山売った運営者に対しては、景品を出し表彰もしている。運営者と直接知り合いになり、彼らを『bit-drive』のホームページの一種のアドバイザーにすることも狙っている。

こうしてみると、アフィリエイトプログラムには、ライフスタイルや好みが細分化した人に向けた広告としての機能の他に、一種の営業マンやコンサルタントの役割もあるわけだ。

ところで。広告先が多様化したからといって、広告費の総額が変わったわけではない。テレビコマーシャルなどを一部減らして、駅構内の広告に振り分けるといった具合に、広告の予算配分を代えただけだ。

広告主は、それぞれの媒体が、具体的な売り上げにつながるのかを厳しく検討するようになった。それを受けて広告代理店などは、イベントの効果測定方法に関する研究を始めたし、雑誌は、公称ではなく実売の発行部数を発表するようになってきた。いよいよ広告でも、成果主義が導入されるようになってきた。

現在は、正確に効果を計算できる広告はアフィリエイト広告くらいしかない。しかし、まもなく、駅の宣伝ポスターに携帯電話をかざせば、自動的に広告主のホームページにアクセスでき、買い物できるといったことが当たり前になるだろう。コンピュータネットワーク社会がやってきた時には、駅貼りのポスターですら具体的に成果がはかれるようになるわけだ。

そうなれば、文化振興的な広告は、めっきり減少するかもしれない。プロ野球の買収に大企業が名乗りを上げなくなったのも、そうした流れの一つだろう。広告のあり方は、革命的に変わりそうだ。

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