簡保年金資金掲載文（小泉三保子との共同執筆）

ライフスタイルの多様化と賃貸住宅の質

限定的な上海万博の経済効果

ライフスタイルの多様化とともに、マンションの規格に合わない家族形態の人が増えてきた。それにともなって、民間、公団で多様なマンションが登場してきた。いよいよ賃貸住宅の質の競争が始まりそうだ。

一昨年くらいから、「デザイナーズ・マンション」とか「デザイン・マンション」と呼ばれる集合住宅がの人気が、若い人を中心に高まってきた。「デザイナーズ・マンション」は、「奇抜で個性的なマンションのこと」や「有名デザイナーが設計したマンション」を意味しているという。

「デザイナーズ・マンション」のはしりと言われているのが、1995年に竣工した東京・中野区の集合住宅「スクエア」だ。この集合住宅は、外壁も内部も、コンクリートの打ちっ放しで、中庭には、銀色のポールが美しく林立している。住居は、メゾネットタイプと可変式の間仕切りがあるスタジオタイプの２種類だ。洒落ているにも関わらず、家賃は、周辺のマンション変わらない。このアパートは、今年で６年目に入るが、平均稼働率は99.８％だという。このアパートを企画したタカギプランニングオフィスは、２ＬＤＫとか３ＬＤＫといった集合住宅の一種の規格化に反発して誕生した会社だ。

現在は、子どもがいない夫婦や一生独身の人など、様々なタイプの家庭がある。ところが、集合住宅の大半は、昔ながらのライフスタイルに沿った造りになっている。首都圏では、30㎡代は若い独身者、40㎡から50㎡くらいは若夫婦、60㎡以上なら中年夫婦と子どもの組み合わせといった具合だ。マンションの規格に合わない家庭は、住み難い。

分譲住宅を買えば、部屋割りをある程度リフォームできる。しかし、現在は　離婚したり再婚したり、中年になって初めて結婚したり子どもが出来たりといった具合に、いつまでも家族形態が不確定な人が増えている。家族形態が変わる都度、マンションを買い替えたり、リフォームし直すのは難しい。彼等は、ライフスタイルの変化に合わせて自由に住み替えられる賃貸住宅を望んでいるはずだ。

同社では、このような人が、今後、増加の一途をたどると考えた。だから、住む人が部屋割りを自由に変えられる可変式の間仕切りがついた大きなワンルームの部屋を企画し、地主や不動産会社などに売り込んでいったという。

一方、部屋の床材や壁に色をつければ、持ち込むインテリアの色が、ある程度規制される。そこで、内外装を、どんな家具やカーテンの色にもマッチするコンクリートの打ちっ放しにしたそうだ。同社では「デザインレス・マンション」にしたつもりだったが、それが、かえってモダンでお洒落に見え「デザイナーズ・マンション」と呼ばれてしまったわけだ。

ところで、バブルが崩壊するとともに、家賃相場は下がり、消費者は、都心の好きな場所に住めるようになってきた。いいかえれば、よほど立地に恵まれた場所でない限り、マンションやアパートの部屋は埋まらなくなってきたわけだ。土地の有功活用に悩む地主や不動産会社には、「デザイナーズマンション」は、立地のハンディを克服する素晴らしい手段に見えた。

「スクエア」の成功を機に、雨後の竹の子のように「デザイナーズマンション」が続々と作られるようになった。「スクエア」のように、デザインレスなタイプもあれば、アジアのリゾートホテルのような豪華なものや、真っ赤に塗りたくった芸術的なものまで実に多様だ。業者の狙い通り、「デザイナーズマンション」をキャッチコピーにした物件の成約率は、通常のものよりも10％高いという。中には、数百人の順番待ちができるほどの人気物件もある。最近は、「デザイナーズマンション」と謳った分譲タイプのマンションも現れた。

今年は、ついに、公団でも新しいライフスタイルを取り入れた先端的な住宅を造った。それは、ＪＲ潮見駅の「潮見駅前プラザ一番街・二番街」だ。一番街は、なんと、ペットを飼っている人の専用マンションになっている。たとえば、鳴き声が聞こえないように防音サッシがついていたり、臭いがこもらないようにを換気設備がついている。また、居間や食事室のドアには犬や猫がくぐり抜けられるように小さなドアがついているし、浴室の排水口は、ペットの毛が詰まりにくい構造になっている。壁紙は、ペットがじゃれて傷めてしまうので、床から１メートルくらいのところだけを頻繁に張り替えられるようになっている。共用部分には、ペットの足洗い場や、ペットの汚物の処理場があるし、郵便受けには、手紙などを取る間に犬のリードを掛けられるフックまでついている。まさに至れり尽くせりだ。

それに対して、２番街は、ペットを飼わない人の専用棟だ。こちらは、通常の２ＬＫや３ＬＤＫなどの他に、ＳＯＨＯで働く人に便利なアネックスルームの付いたタイプや可変式の間仕切りついたワンルームなどがある。その上、全室床暖房がついている。デザイナーズマンション顔負けの、快適な設備と多様なライフスタイルに対応している。

現在、大手ディベロッパーが、丸の内や愛宕山や元麻布などの都心の一等地に、続々と豪華な賃貸住宅を建設したている。このような住宅が増加すれば、賃貸住宅のイメージは一新されするだろう。

普通所得者向きから高額所得者向きまで、多様なタイプの賃貸住宅が誕生しつつある。供給量が増えれば、いよいよ日本でも、住宅の質の競争が始まるに違いない。定期借家権制度をはじめ、家主の権利の保護が進んできたことも追い風になるはずだ。

欧米のように、ライフスタイルの変化に合わせて相応しい賃貸住宅が選べるようになれば、若いうちから、破綻すれすれの借金をしてマンションを買う必要がなくなる。そうなれば、もっと私たちは豊かな生活が送れるし、個人消費も強くなるはずだ。