簡保年金資金掲載文（小泉三保子との共同執筆）

成熟社会と質屋ブーム

最近、質屋で買い物をしたり、不要品を売る若い女性が増えている。質屋ブームは、リサイクル社会の本格的な到来を意味しているのかも知れない。

最近、若い女性の間で、質屋が一寸したブームだという。ファッション雑誌は、こぞって「質屋特集」を組むようになった。彼女たちの目当ては、ブランド品のバッグや小物や貴金属類などだ。　ブランド品は、実に偽物が多い。もちろん、正規代理店を通じて買えば安心だが、その場合は定価で割引はない。また、生産が追いつかない人気商品の場合は、１年以上待たされることもある。

　ディスカウントショップやリサイクルショップでは、普通の商品は正規代理店よりもはるかに安く買える。また、品薄の人気商品でも、定価の数倍を払えば即座に手に入る可能性は高い。ところが、偽物を買う可能性も高まるわけだ。偽物を販売している店に悪意はない。単に、本物と偽物を見分ける技能が劣っているだけだ。

それに対して、質屋には、品物を見分ける独特の技能が継承されている。彼らは、商品を見ると同時に、客への観察も怠らない。たとえば、男性が女性物のバッグを持ち込んだり、高齢者が若者向けの貴金属を持ち込んだ場合などは、まず疑ってかかるそうだ。持ち込まれた商品が偽物である場合は、とても売る気になれないような安値を提示する。偽物を持ち込む客の大半は、それを本物であると信じているからだ。偽物であることを告げれば、客は赤恥をかく。

大半の商品は、質屋の店頭で判断できる。自信のない商品に関しては、メーカーに問い合わせるそうだ。案外、多くのメーカーが問い合わせに応じている。商品を店頭で販売する場合、時計やアクセサリーに関しては、店頭に並べる前に磨いたり修理しなければならない。それを、それぞれの製造メーカーに依頼するそうだ。もし偽物であれば、「これはうちの商品ではありません」とメーカーから修理や磨きを断られるからだ。高級な時計や貴金属はこれを最終チェックにしている。　このような質屋の本物を見分ける技能が、ブランド好きの若い女性達から、高い評価を得たと言えよう。

もちろん、女性客が質屋を愛用するようになった背景には、質屋が急速に近代化を図ったこともあげられる。最近は多くの質屋が、カタカナ名のしゃれたブランド専門ショップや貴金属専門ショップなどを構えるようになった。ブランド専門店とＯＡ専門店といった具合に、数種類の専門店を展開しているところもある。また、インターネット通販を手掛ける質屋も増加の一途を辿っている。

質屋がショップ運営に力を入れた大きなきっかけは、実は、リサイクル・ブームの盛り上がりだという。現在では、ちょっとした商店街なら、どこでもリサイクルショップがある。中古品の専門店化も進んだ。中古衣料品のパークラムマーケット、古本のブックオフ、中古ＣＤのレコファンなどは、チェーン展開に成功した。

中古市場が伸びたのは、豊かな社会になり、壊れる前に不要になるモノが増えたことだ。環境意識が高まるとともに、多くの人が、まだ使える不要品を捨てることは悪いことだと考えるようになったからだ。一方、買い手の側から考えれば、豊かな社会の不要品はまだ十分使える商品だ。ときには新品同様のモノもある。かねてから欲しかった品物が、割安なら魅力的だ。単身赴任のように、取りあえず生活用品が欲しいといった人は、新品を揃えるのはもったいないので、格安の中古品は便利だ。本やＣＤのように中味が重要な商品は、中古でも新品でも同じだと考える人もいる。また、若者は、中古の家具や洋服などに希少価値を見いだしているそうだ。新品よりも高い値が付く場合もある。不要品を捨てずに売りたいと考える人と、中古品でも欲しいという人の増加は、中古市場という膨大なマーケットが誕生した事を意味している。

ところで、消費者金融の登場とともに、質屋はじわじわとマーケットを浸食されてきた。いちいち担保を取られる質屋よりも、無担保で即座に５０万円くらいの融資が受けられるキャッシングの方が、はるかに手軽だからだ。キャッシングの自動化は、この傾向に一層の拍車をかけた。質屋は、リサイクル市場へ進出することによって、うまくこの穴を埋めたわけだ。質屋はもともと、融資の他に商品の買い取りもしていたが、買い取りの比率は微々たる物だった。そもそも買い取りは、古物商の仕事であり、質屋の本業ではない。ところが、都内のある質屋では、現在は質入れの商品と買い取りの商品の比率は、４対６で逆転したという。その店で販売している商品の９割は買い取り商品で、質流れ商品は１割に過ぎないそうだ。店頭に並べる商品をわざわざ仕入れることもあるという。もっとも、大阪ではまだ、６対４くらいで質入れの比率の方が高いそうだ。いずれにせよ、リサイクルブームとともに、質屋は、金融業から流通業にうまく転換を図り、見事に再生したわけだ。

そもそもリサイクルブームは、ボランティア団体や自治体が主催するフリーマーケットを中心とした個人間の売買から始まった。現在でも、フリーマーケットは、客集めの代表的なイベントの１つだ。大勢の客が集まるので、最近は、フリーマーケットに過剰在庫を抱える業者の出店が目立つようになった程だ。　これを、システマテックにしたのが、中古販売業者や質屋などだ。さらに、ヤフーや楽天といったネット関連の企業にとっても、個人間の中古商品の売買の仲介は、ドル箱の一つだ。 フリーマーケット方式、店舗方式、インターネット方式をはじめ、中古市場を巡る競争はますます激しくなるだろう。中古品が当たり前になるにつれて、これからは、いかに魅力的な商品を集めていくかが、中古市場で生き残る鍵になる。売れ筋、商品集めなどにコンピューターを駆使している企業も少なくない。海外から中古品を大量に仕入れている企業もある。

ところで、中古品を皆が愛用すれば、修理の技術も向上するだろう。地球環境の観点から考えれば素晴らしいことだ。しかしそれは、同時に新しい物が売れなくなる事も意味している。モノはたくさんあり、人々の生活は豊かだが、メーカーの売上は伸びずに所得は横ばいか低下していく。日本も、ヨーロッパ型の成熟社会で生きる術を身につけたようだ。あるいは、世界に冠たるリサイクル社会だった江戸時代のライフスタイルを思い出したのかも知れない。質屋ブームは、それを象徴しているように思える。