簡保年金資金掲載文（小泉三保子との共同執筆）

新しいコミュニティづくり

マンション・ＰＴＡ・商店街をはじめ、意外なところが コミュニティづくりに力を入れ始めた。 背景には、コミュニティ無しには解決できない問題が沢山でてきたことがありそうだ。最近、マンションの中に、どのようにコミュニティをつくるかが大きなテーマになっているという。

そのきっかけをつくるために、マンション内の集会所などを利用して、一種のカルチャーチャー・スクールや子供向けサークルなどを開催するところもでてきた。講師は、住民の中で特技を持つ人があたるので、参加費は安く済む。また、管理組合のホーム・ページを作成して、交流活動を活発にするところも増えてきたという。

ここ数年、一種のブームにもなってきた大規模マンションでは、公共施設が充実している。保育施設、フィットネス・クラブ、日曜大工ルーム、サウナを併設した大浴場、展望ルームなどはその代表だ。共用施設を頻繁に利用すれば、自然に、顔見知りが増えるだろう。

つい最近まで、マンションに住む大きなメリットのひとつは、わずらわしい近所づきあいをせずにすむことだと考えられていた。エントランスや廊下などは、専門業者が掃除するし、ゴミ捨て場の掃除は、管理人さんがきちんとしてくれる。町内会やマンション内の連絡事項も、全部管理人さんがやってくれる。

もし、一戸建てに住めばそうはいかない。玄関の前を汚くしておけば、近所から白い目で見られるだろう。ゴミ捨ては、カラスや猫に荒らされないように注意を払わなければならないし、ゴミ捨てのルールもきちんと守らねばならない。もちろん、回覧版は、自分で隣の家に運ばねばならない。管理会社が間に入っているマンション生活とは大違いだ。多くの人が、マンション生活は気楽だと考えた。

ところが、マンションが日本に根付いて数十年たつと、マンションこそ、近所づきあいが大切だと分かってきた。たとえば、マンションの管理費は、どこの管理会社に頼むかによって、大きく変わってくる。本来なら、定期的に、各業者から見積もりを取って、割安な業者に切り替えていく必要があるが、住民同士のコミュニティがなければ、そんな決断は難しい。ペイオフが導入さたので、修繕積立金を、どの金融機関で運用するかも大きな課題になってきた。老朽化した場合、膨大なお金を出して立て直すか、修理で安く済ませるかは大問題だ。修理や建て直しの費用は依頼する業者によって何割も違う。

このような様々な問題にうまく対処できるかどうかのポイントが、マンション内のコミュニティの有無にある。だから、コミュニティづくりに力を入れるマンションが増えてきたわけだ。

マンションに限らず、意外なところがコミュニティづくりに力をいれ初めている。ユニークなところでは、ＰＴＡが、コミュニティづくりに一役買おうとしていることだ。そのひとつの方法が、幼稚園や小学校を核に、幼稚園から高校生までＰＴＡが、いっしょに集まり、教育や地域活動などについて話し合う場を設けるといった方法だ。すでに、大都市や地方都市の一部で始まった。幼稚園や小学校を核にすれば、通学範囲が狭いので、集まった人で近所づきあいが始まる可能性が高い。幼稚園児を持つ親と高校生を持つ親のコミュニケーションが始まれば、次は、高校生をボランティアとして幼稚園や小学校に遊び相手として派遣するそうだ。小学校などでは、先生の高齢化が進み子供と気楽に遊べない。だから、高校生に遊び相手の役をやらせようというわけだ。

一方、最近は、親戚づきあいも減り、また、兄弟の数も少ないので、初めて抱きあげる子供は、自分の子供というケースが増えてきた。子供に接したことがなければ、育児ノイローゼが増えるのは当然だろう。だから、高校生に、小さな子供と触れ合う機会を与えるという狙いもあるそうだ。このような活動が広がれば、近所づきあいも復活し、地域で子供を育てるという発想が生まれ、親の育児の負担が軽減されるという。

　商店街の歯抜け店舗を保育所にするといった計画も増えてきた。子供を預かれば、そこを核にコミュニティが形成され、商店街の活性化につながると期待されている。

私達は、かつてコミュニティから抜けることこそ進歩だと考え、多くの若者が都会で就職した。地方に残された人も、都会の生活を真似て、親戚づきあいをやめ、地域コミュニティへの参加をやめた。今や、コミュニティはすっかり崩れてしまった。マンションの住人が、管理を管理会社に、親が教育を学校に任せっぱなしにしたのと同様に、地域社会のことは行政に任せっぱなしにするようになった。

ところが、現在になって、コミュニティがなくては、とても解決できないような様々な問題がでてきた。環境問題、街の景観保存、都市計画、少子高齢化などは、その代表だ。価値観の多様化がすすむとともに、いずれの問題もひとつの解答を見つけることは、一層難しくなった。行政に任せれば、地域の特色は無視した画一的なやり方になる。それを防ぐためには、住民同士が話し合って答えを出していかなければならないが、そのような場がない。こうした問題が増えている点でも、コミュニティづくりが真剣に見直されているのかもしれない。

ところで、最近、マンションの管理のアドバイスをするマンション管理士という資格がつくられた。ＰＴＡでは、子供が手を離れて時間が空いたＯＢ、ＯＧが、ボランティアとして参加しようという動きがでてきた。様々な専門家やベテランの登場は、うまくすればコミュニティの核として機能するだろう。しかし、彼らが有能であればあるほど、再び、人任せの体質が定着するかもしれない。

いずれにせよ、古いコミュニティは、戦後50年かかって破壊されたので、新しいコミュニティが生まれるまでに、同じくらいの期間がかかるかもしれない。