- SRI 時々刻々
- 簡易保険資金掲載文
- 家庭に広がる リスク管理(06/2)
- 日本企業と手帳術ブーム(05/12)
- 変化の時代とフレキシブル・・ (05/9)
- 人口構造の変化と顧客の囲込み (05/8)
- 企業の中の女性社員比率が意味するもの(05/7)
- 新しいコミュニケーションとネットワークの格差(05/6)
- コミュニティの崩壊とコスプレ・ブーム(06/5)
- 日本が目指す企業と社会(05/4)
- コミュニケーション・スキル・ブームの背景(05/3)
- 時代の変化と新しいリスク(05/2)
- 組織に蓄積された独自のノウハ
ウを見直す(05/1) - 豊かさとロングステイ
- ソシアル・インフラが求められる
時代 - 情報化社会のコスト(04/12)
- 多様化する広告と成果
- 大学に進出する専門学校
- ワンストップ・ショッピングの場になった
- 仮想世界の可能性
- 高騰する発明 対価と日本社会
- ユニークなファンドの登場と消費者教育
- 人材流動化時代のひずみ
- インテリアブームと繁華街の不振
- IR活動ブームの背景と効果
- ライフスタイルの多様化と時間型サービス
- グルメブームで深まる文化
- ファスティングブームによって見直された断食
- 新しいコミュニティづくり
- 成熟社会と質屋ブーム
- 環境問題と新しいネットワーク
- 過去に向かう消費ブーム
- 価値観の変化と漁師ブーム
- ネットオークション市場の発達と
影響 - ライフスタイルの多様化と賃貸住宅の質
- 狂牛病が浮き彫りにした経済
システムの欠点 - ワインブームと庶民文化
- 顧客の意見に潜むビジネス
チャンス - リサイクル社会の実現は、システムづくりから
- その他
簡保年金資金掲載文(小泉三保子との共同執筆)
時代の変化と新しいリスク
昨年、ディスカウント・ショップ『ドン・キホーテ』が、立て続けに放火の被害にあった。いうまでもなく、『ドン・キホーテ』の特色は、圧縮陳列だ。
圧縮陳列とは、天井近くまで商品陳列スペースを設け、そこにうずたかく、ぎっしりと商品を積み上げていく陳列方法である。圧縮陳列の第一のメリットは、目の錯覚により、実際よりも沢山商品があるように見えることだ。客は、豊富な商品の中から選んだという満足感を得られる。また、店舗にとっては、在庫スペースを節約できるというメリットがある。
店舗運営の教科書などには、ディスプレイの基本は、見やすく、手にとりやすいことだとかかれている。ドン・キホーテの代表の安田隆夫さんは、それでは、商品を「探す」「見つける」という買い物本来の楽しみがないと考えた。そこで、目的なく店内をぶらぶらして、思わぬ商品を発見できる「銀ブラ」ならぬ「ドンブラ」を提案したわけだ。
仕入れに関しては、本部の一括仕入れと、各店舗独自の仕入れを並存させた。それによって、店舗ごとに商品構成や価格差が出て、チェーン店にありがちなマンネリも防いでいる。特筆すべきは、アルバイトにも、スポーツシューズ、健康器具といった担当をもたせ、決められた予算の範囲内で、自由に仕入れをさせたことだ。仕事を任せられれば人間のモチベーションは急速にあがっていく。アルバイトは、賃金は安いながらも、仕事にやりがいを感じてすばらしい働きをした。これが、同店の仕入れの強みでもある。
「ドン・キホーテ」は、住宅街の店舗では深夜2時から3時ぐらいまで、繁華街では24時間空いている。深夜に時間をもてあましている若者たちには、格好の暇つぶしの場になった。また、帰宅が遅いサラリーマンやOLにも、便利な買い物場所になった。深夜の1時に自転車がよく売れるといった店もあるそうだ。
買い物の楽しさを重視した店づくり、フリーターの生きがいづくり、深夜族の遊び場の提供をはじめ、同社は優れた経営によって、急成長を続けた。設立16年目の1996には、ついに、東証一部へ上場も果たした。それが、連続放火という想像を絶する事件で、経営基盤が揺さぶられつつある。
同社が、今後、放火対策としてとるべき手段は、いくつも考えられる。もし、火事で通路が塞がれる可能性を100パーセント回避させようとするのであれば、同社のセールスポイントである圧縮陳列をまったく辞めてしまうことだ。逆に、これまで通りに圧縮陳列を続けて、火災が起こった場合に備えて高い保険をかけるという方法もあるだろう。また、一部に圧縮陳列を残し、あとは、社内の防火訓練をしたり、防犯カメラや警備員の数を増やすといった方法もある。
放火魔予備軍を生み出さないためには、ねたみや怨みを買わないための対策も必要かもしれない。たとえば、「儲かっている」「成功している」といった類の記事は、日本では反発を招きやすいので、できるだけマスコミへの露出は避ける方がよいかもしれない。目立つ看板を止めれば、ターゲットになりにくいだろう。しかし、これでは宣伝不足になって客足に響くかもしれない。
また、出店の際は地元とよく話し合ったり、賠償金を弾んだりして、できるだけ摩擦を避ける努力も必要かもしれないが、それでは出店に関わる費用が増大するし、出店スピードも落ちる。倒産した業者から商品を買い取る際も、露骨な買い叩きをしなければ、怨まれないかもしれないが、同社ならではの激安商品をそろえることは難しくなる。
万引犯に対しては、やわらかく接して良心に訴え、反感をもたれなくする方法と、すぐに警察に引き渡す断固とした姿勢で接する正反対の態度が考えられる。
このように、放火対策ひとつとっても、さまざまな選択肢がある。経営者は、収益と考えあわせながら、どの対策の組み合わせがベストなのかを判断していかなければならない。
困ったことには、ここ数年間は、ドン・キホーテの放火に相当するような、思わぬ事件が多発している。みずほ銀行のシステム障害、ヤフーBBの顧客情報の漏洩、狂牛病による吉野家の経営危機などは、その代表だ。また、テロ、戦争、自然災害、疫病などは、旅行業界全体に甚大な被害をもたらした。
それは、経済を取り巻く環境が大きく変わってきたためだろう。まず第一は、アウトソーシングが広がり、社内に優れたマンパワーが不足して、チェック機能が失われたこと。第二は、派遣社員やアルバイトや転職者などが増え、社内の人間を総合的に見ることが難しくなったこと。第三は、ベンチャーファンドや資本市場への上場による資金調達が容易になったため、株主の意向を組んだ収益第一主義の経営が主流になってきたこと。第四には、グローバル化の進展によって、一地域の事件が、瞬く間に世界中に拡大したことがあげられるだろう。このほか、IT化によって企業内部への進入が容易になったこと、治安の悪化、モラルの低下、ジェネレーションギャップの拡大をはじめ、さまざまな変化がある。
企業は、このような大きな変化から小さな変化までをに総合的に考えて、どんなリスクが潜んでいるのかを予測し、さらに、前述した放火対策のよう、ひとつひとつ対策をたてていかなければならない。
ところが、これまでの縦割りの会社組織では、リスクを考える部署は、ばらばらであるケースが多かった。たとえば、法律にまつわるリスクは法務部、システムに関するリスクは総務部やシステム部やシステム会社、社内の不正に関しては人事部といった具合だ。これでは、専門部門内の議論ばかりが深まって、経営トップにも、他部門にも事態の深刻さはのみこめない。もちろん、専門部署同士の連携も生まれないので、総合的な対策を打てないわけだ。今後は、総合的にリスクを把握して、対策を考えるような組織づくりが不可欠だろう。
もちろん、そうした組織になっても、社会はますます複雑になり、予想外のリスクは増加する一方だし、そもそもすべてのリスクを予想するなど不可能だ。しかし、他社の事件、現場で働いているベテランの意見を参考にすれば、青天の霹靂といった事態は、かなりの確率で避けられるはずだ。さらに、予想されるリスクをできるだけディスクロージャーして、消費者、株主などから意見を吸い上げる仕組みづくりも必要だ。
もっとも重要なのは、社会貢献や文化活動に精を出す親しみやすい会社にしておくことだ。品位ある企業は、攻撃対象にされにくいし、危機に瀕した時には、社会から、必ず救いの手を差し伸べられるはずだ。